4.求められるしたたかな経営判断

 以上を総合すれば、日本企業の対中投資姿勢は2025年に転換点に差し掛かり、今後は勝ち残った企業が攻めに転じる局面に入っていくように思われる。

 当面有効な突破口が見当たらない景気後退局面に直面している中国政府にとっても、日本企業の対中投資積極拡大姿勢はありがたい。

 中国政府は外交と経済をある程度分離する。

 特に、地方政府は日本企業の対中投資を歓迎する姿勢を維持する可能性が十分考えられる。多くの日本企業もそれを強く望んでいる。

 2012年に尖閣問題が発生し、日中関係が最悪の状況に陥った際にも、中国の消費者は日本企業の製品を買い続けたことを思い出す。

 厳しいダメージが長引いたのは自動車業界だった。日系メーカーの自動車は日本の象徴とみなされたことから、数年にわたって日本車の購入を控える傾向が見られた。

 しかし、自動車以外の消費財についてはあまり大きな影響を受けなかったのが実情である。

 問題はほかにもある。日本の本社サイドが対中投資を拡大することがレピュテーションリスクにつながると考えるようになり、中国ビジネスに対する姿勢が消極化した。

 中長期的な観点から日本企業の中国ビジネスに対する影響を考えれば、中国側の買い控えより、日本側の投資姿勢消極化の方が日本企業の業績に与える悪影響が大きかった企業も少なくない。

 今回の日中外交上の新たな難題が今後日中の外交関係、経済関係等にどのような影響を及ぼしていくか、注視していくことが必要である。

 その際、中国は外交上の厳しい姿勢と中国現地での日本企業受け入れ姿勢を使い分ける傾向があることを考慮すべきである。

 日本の本社が中国現地の意見をよく聞かずに、メディア情報等を信じてネガティブな判断を下せば、これまでダメージの繰り返しになる。

 日中関係悪化の厳しい逆風の中でも、日本企業の経営者が中国現地から伝えられる生の情報を重視し、自ら現地に足を運んで経営環境を冷静に判断し、したたかに行動することを強く期待したい。

 せっかくプラスに転じつつある中国ビジネスの潮目が逆戻りしないことを願っている。

 中国経済は2010年に日本経済の規模を超えたが、今や日本経済の5倍の規模に近づきつつある。巨大な中国市場でのビジネスの順調な発展は日本経済の底力復活の支えとなる。

 今年の潮目の変化によって中国ビジネスが拡大に転じれば、日本経済が30年ぶりに目覚めて、長期安定的な成長力を回復しつつある現状において大きな推進力となる可能性が十分ある。