3.中国経済減速下での日本企業の積極姿勢

 今回の中国出張中に得られた2つの重要な知見がある。それらは一見相矛盾するように見える。

 一つは中国経済が当面、経済成長率の下降傾向を辿るとの見通しである。昨年9月以降の景気対策の効果で、本年3月頃までの半年間程度、不動産市場や景況感には若干明るい兆しが見られていた。

 しかし、本年4~6月期以降、再び景気は下降局面を辿り始め、消費、投資、不動産市場、景況感ともに緩やかな低下傾向を辿っている。

 この傾向は現在の10~12月期も続いているうえ、来年も同様の傾向が続くとの見方が大勢である。

 このため、現在のマクロ経済政策運営が維持されれば、今年の経済成長率見込みの5%前後に比べて減速し、来年は4%台前半にとどまるとの見方が多い。

 もう一つの知見は、その逆風にもかかわらず、日本企業の対中投資の潮目が変わったとの指摘である。

 ある日系大手金融機関が実施した中国進出日本企業向けのアンケートによれば、2023年から25年にかけて対中投資を減少させると回答した企業数が回答全体の30%前後で徐々に減少しつつあったが、今後1~2年についてはその割合が一気に20%にまで低下した由。約3分の2が現状比横ばい、十数%が拡大と答えた。

 こうした日本企業の対中投資姿勢のポジティブな変化をもたらした要因は主に以下の2つである。

 一つは、縮小・撤退の方針が実行に移され、比較的積極的な企業だけが残っていること。もう一つは、昨年11月以降の短期滞在ビザ発給規制の緩和である。特に2つ目の要因が重要である。

 それによって日本企業の本社から中国現地を訪問する経営層、部課長クラスが急増し、中国市場の実態がようやく日本の本社に伝わるようになった。

 確かにマクロ経済データを見る限りでは、中国経済の以前の活力が失われているのは明らかである。

 また、メディア情報を通じて注目される問題はいわゆる「内巻」という過当競争で、利益なき増産、サプライヤーの赤字採算といったネガティブなニュースばかりである。

 ところが、現地に足を運んでみると、日本には伝えられていないハイテク産業分野の最先端技術が日本の技術水準を抜いている実態を認識する。

 さらには、そうした企業で働く優秀な若手従業員の仕事に対する意欲的な取り組み姿勢に圧倒される。こうした中国現地での実体験が日本企業経営層の認識を徐々に変化させつつある。

 その認識の変化が、前述のような今後の投資姿勢の積極化につながってきている。