議論を重ねれば重ねるほど、習近平を追い落としても事態が改善しないことが明らかになった。下手に改革に走れば、ソ連の二の舞になる。とにかく現状を維持しなければならない。それには習近平の強面の怖さが必要だ。小物の胡春華では人々の不満を抑えることはできない。

習近平と人民解放軍の関係

 今回の四中全会でもう一つ注目すべきことは台湾侵攻であった。習近平は台湾を解放した指導者として、4期目も5期目も政権を担当し、歴史に名を残したい。そんな習近平に立ちはだかったのが人民解放軍である。軍は自分の実力をよく知っている。台湾侵攻はできない。

 2022年に習近平が第3期に入った頃から習近平と軍との対立が表面化した。習近平が2027年までに台湾侵攻したいとの意向を伝えたのに対して軍が反対したからだとされる。

 習近平は怒ったはずだ。彼が2012年に共産党のトップになって以降、ロケット軍を新設するなど多額の予算を軍に割いてきた。それにもかかわらず侵攻できないとは何事だと言うわけだ。習近平が軍を調査すると、多くの汚職が発見された。ロケットの燃料が横流しされて、水が入れてあったことなどその一例である。習近平は関係者を処罰した。

 それに対して軍は、習近平に引き立てられて異例の出世を遂げた将軍たちの粗探しを始めた。中国の軍人は誰もが汚職を行っている。仲間が組織を上げて調査すればすぐにボロは出てくる。

 動かぬ証拠を突きつけられて、習近平は何衛東や苗華を切り捨てざるを得なかった。共産党中央軍事委員会のメンバーは7人であるが、習近平派と見られた3人が失脚し、その後任は補充されていない。「泣いて馬謖を切る」ような形になった習近平と軍の関係は微妙であるが、両者ともにこれ以上の混乱は避けたいと思っているはずだ。