不良債権の処理は不可能

 党内の議論の中心は次のようなものだったに違いない。

 まずは責任論。習近平がこの不況を作り出したのかどうかが議論されたはずだ。胡錦濤政権のスローガンは「和諧社会」であったが、習近平はそれを「中国の夢」に変えた。そのスローガンの下で戦狼外交を行繰り返し、米国に代わる覇権国家になるために、EV、太陽光パネル、半導体、AI産業の育成に力を注いだ。

 それがバブル崩壊を招いたのであろうか。答えは「否」だ。バブルは必ず崩壊する。そしてバブルを生んだのは習近平ではない。それは江沢民時代に始まり、胡錦濤時代に大きくなった。習近平は「家は住むものであり、投資の対象ではない」と、その抑制に努力していた。バブルを生み出した責任を習近平に帰すことはできない。

 それではトップを習近平から他の人物に変えれば中国の不況は改善するのであろうか。ここが最も重要な議題だった。習近平から冷遇されてきた共産党青年団出身の胡春華らが習近平に代わる人物として下馬評に上った。共青団出身者は知的に優れ、現在でも官僚組織の中で重要な役割を果たしている。

 しかしいくら知的に優れていても現在の中国経済を回復軌道に乗せることはできない。回復させるには、日本が行ったように、不良債権を処理しなければならないからだ。

 中国の不動産バブルの規模は日本の何倍にもなる。そして乱脈を極めた過去の金融に、官僚機構と共に大物政治家達が強く関与している。そこに手を付ければ大混乱に陥る。胡春華はこの難局でバトンタッチされることに尻込みしたに違いない。彼は飛び切りの秀才である。そんな彼なら不良債権の処理が不可能であることが分かるはずだ。