外交トップ王毅にコンプレックス?

 中国の外交政策の方向性を決定するのは、党中央外事工作委員会。この主任はもちろん習近平、副主任は李強首相、そして国家副主席の韓正ほか、国家安全部、中央宣伝部のトップらが委員に名を連ねる。

 だが委員会メンバーたちは外交素人であり、実際の外交政策をまとめ、習近平らに提示するのは外事工作委員会弁公室主任の王毅である。王毅は外事委弁公室主任と外交部長を兼任している。

 外交部長は外交実務を統括するポジション。つまり、王毅は外交政策方針と政策実務すべて統括しており、中国外交を実質掌握しているといっていい(もちろん、最終的には習近平が決める)。

 だが、これは本来分担すべき仕事を一人が全部抱えこむという点で、かなりのオーバーワークである。しかも従来、外交トップは米国との交渉経験をもつ英米派が務めていたこともあって、ジャパンスクールの王毅には荷が重いといわれていた。

 日本やアジア諸国を主に相手にするジャパンスクールの外交官は、一般に英米の手ごわい国との交渉で鍛えられてきた外交官より能力が劣るとみなされがちだ。日本は中国の気持ちを勝手に忖度してくれるし、対アジア諸国交渉の相手国は中国にとってはもともと属国で格下相手だ。

 一方、対英米交渉では、単純な戦狼外交では勝てない硬軟織り交ぜたテクニックが求められる。楊潔篪も秦剛も劉建超も、英米派は、表向きは洗練された雰囲気で、時に戦狼型の姿勢を打ち出しても、緻密で労力を惜しまない交渉能力を持つ外交官との評価が高い。

 王毅には、そうした英米派に対するジャパンスクールならではコンプレックスがあり、英米派の若手外交官の急激な出世に脅威を感じて、粗探しをして、習近平にチクり失脚させてきたのではないか、というわけだ。そのせいで、有能な外交官ほど出世しにくくなり、外交部全体のレベルが落ちてきたのではないか。