有能な外交幹部が次々と失脚

 最近、国内外の有識者がショックを受けたのは、なんといっても劉建超・元党中央対外連絡部長(中聯部長)の失脚だろう。彼の突然の失踪、失脚については、このコラム欄でも解説したことがある*1

*1中国の外交担当高官がまた「失踪」、今度は劉建超が拘束?英米派にして知日派、習近平に排除されたか

 彼はかつての欧米人が好きなタイプの外交官で、英語が流暢で洗練された物腰と知的なウィットにとんでいた。謙遜し、親しみやすそうに見えて、最終的には目的を達成する韜光養晦型の手ごわい交渉ができるタイプの人物だった。その実力は、習近平も認めており、「キツネ狩り」作戦担当外交官(規律検査委員会国際協力局長、海外逃亡の汚職官僚を指名手配し、逃亡国政府に対し中国に引き渡すように交渉する)に抜擢したほとだ。

 彼は昨年初めごろまでは、確実に次の外交部長に就任すると欧米外交官の間でみなされていた。おそらく本人もそのつもりであったろう。外交部長ポストは、習近平の抜擢により駐米大使から外交部長にロケット式に出世した秦剛が元フェニックスTV女性キャスターとの不倫疑惑で失脚した後、外事工作員会弁公室主任の王毅が兼務していた。

 もし、英米通の劉建超が外交部長になれば、戦狼外交でジャパンスクール出身の王毅と違い、欧英米と阿吽(あうん)の呼吸で協調、交渉できるようになると欧英米外交官はその日を待ち望んでいたのだった。

 だが、彼は今年7月末、国外出張から帰国したところを拘束された。劉建超に関する公式報道は皆無だが、9月30日に劉海星が新たな中聯部長として着任しており、劉建超が粛清されていることは確実だ。

 劉海星は北京外語大フランス語学部卒業で、フランス駐在、欧州局長、党中央国家安全委員会弁公室をへて、中聯部長となった。中聯部長というのは政党外交を担うのだが、共産党≧国家の中国において、ときに外交部長より重視される。それがなんとも小物感が漂う、外交部王道ではないタイプが就任したことで、外交部全体の能力レベルが低下している印象を受けた。

 秦剛、劉建超と習近平が抜擢した英米通の有能な若手外交官が続けて失脚したのは、実は習近平の単なる気まぐれだけでなく、王毅によるライバル排除の可能性が指摘されている。