巨大企業が下げたら市場全体が道連れ
投資会社アルファシンプレックスのチーフ・リサーチストラテジスト、キャスリン・カミンスキ氏は「集中は大勢の人に恩恵を与えてきた。時価総額で加重平均した株式指数を保有している平均的な米国人は利益を上げ、それも大金を稼いだ」と言う。
「同時に、もし巨大企業の1社もしくは全社が下落したら、市場全体を道連れにする恐れがある」
市場集中の新たなフェーズは、2022年11月のChatGPTの公開とともに始まった。
それ以来、質問に対して人間のような回答を出し、詩を書き、オンデマンドで画像を生成することができるソフトウエアへの投資家の熱狂により、AI関連銘柄のバスケットの相場が165%高騰した。
同じ期間にS&P500が約70%上昇する一方、事業の中核としてAIを活用しない企業は25%しか上昇しなかった。
2023年から2024年にかけて、アップル、マイクロソフト、メタ、アマゾン、アルファベット、エヌビディア、テスラの「マグニフィセントセブン」が市場全体の上昇の大部分を担い、AIと近接する比較的小さな企業の上昇幅はそれほど大きくなかった。
しかし、今年に入ると、そのトレンドが逆転した。
投資家がビッグネームから目線を移すにつれ、エネルギー企業のGEベルノバやビストラ、さらにはパランティア・テクノロジーズ――S&P500のなかで対利益で最も高いバリュエーションを誇る企業――やオラクルといったソフトウエア企業を含むマグニフィセントセブン以外のAI関連銘柄が今、競合大手をアウトパフォームしている。
非AI銘柄は引き続き出遅れている。
「集中の誤謬」
運用会社リサーチ・アフィリエイツのクロスセクション株式調査・戦略部門を率いるキュー・ヌーエン氏は「私はAIでまた弾けることができる割安なテック企業に興味があり、(データストレージ会社の)シーゲートや(半導体試験装置の)テラダインのような我々が保有している銘柄数社が10月29日に高騰した」と話す。
同氏はAIだけが相場上昇の原動力になっているとの考えを否定する。「7社のエヌビディアが市場と経済を支配しているとしたら、それはクレイジーだ」と言った。
「だが、アマゾンはクラウドコンピューティングを売っており、シリアルも販売している。アップルにはハードウエアとソフトウエアがある。メタとアルファベットは通信事業を手がけている。これらの企業は単なるAI企業ではない。各社をすべて結び付けているテーマは、事業の利益のために新技術を活用する動きのリーダーだと見なされていることだ」
上位銘柄の比重が高い市場を本質的にリスキーな市場として描くことは、投資家がどれほど「大きく、安定し、多角化された企業」へ引き寄せられてきたかを無視することにもなるとヌーエン氏は指摘した。
「集中度の高さは実際、低リスクと結びつけられている」と言う。
ウィンダム・キャピタル・マネジメントのマーク・クリツマン最高経営責任者(CEO)とステート・ストリート・アソシエイツのデービッド・ターキントン氏が最近まとめた「集中の誤謬」と題した論文はヌーエン氏の主張を裏付ける。
上位企業の比重が高い株式市場がリスクの高い投資になるかどうかを調べるため、両氏は「ダイナミック・トレーディング・ルール」と描写するものを試した。
市場の集中度が高まった時に株式へのエクスポージャー(投資残高)を減らし、S&P 500のバランスがより均等になった時に株式へのエクスポージャーを高める仕組みだ。
クリツマン、ターキントン両氏は、長期投資のバイ・アンド・ホールド(買い持ち)戦略は「ダイナミック戦略を取った場合の2倍以上の富を生み、それも低リスクで稼ぎ出した」と結論付けた。