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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年10月22日付)

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領(10月26日、写真:ロイター/アフロ)

 我々はポピュリストのデマゴーグ(扇動政治家)の時代を生きている。 これは新しい現象ではない。

 古代ギリシャの哲学者プラトンは、著書『国家』で民主主義を論じるにあたって「デマゴーグ」という言葉を使っている。

 デマゴーグによる扇動は民主主義のアキレス腱だというプラトンの指摘は正しかった。今では多くの国でその脅威を目にすることができる。

 米国大統領であるドナルド・トランプは右派ポピュリストのデマゴーグの典型だ。

 筆者の同僚ジョエル・サスが先日指摘したように、ポピュリズムというものは、政治はもとより経済にとっても有害だ。どれほど有害であるかはアルゼンチンのたどってきた道筋によく表れている。

 アルゼンチンはイポリト・イリゴージェンが政権を握った1916年以降ずっと、ポピュリズムに毒され続けている。

 この100年あまりの間に1人当たり国内総生産(GDP)は米国のそれとの相対値で半減し、ブラジルのそれとの相対値では5倍から1.25倍に縮小した。

「大衆vsエリート」の構図が旗印

 サスが引き合いに出しているのはマヌエル・フンケ、モリッツ・シュラリック、クリストフ・トレベッシュによる論文『ポピュリストの指導者と経済』だ。

 ポピュリズムが経済に及ぼすダメージに的を絞った、啓発的な論考だ。

 今日の定説にならい、論文は「ポピュリストは自身の政治課題の中心に『大衆vsエリート』の物語を据え、自分たちこそが『大衆』の唯一の代表だと主張する」と明言している。

 すると定義上、彼らに反対する勢力は「大衆の敵」になる。

 ポピュリストは独裁者ではないかもしれない。だが、この論文に収められたリストにいみじくもヒトラーの名前があるように、独裁者になり得る存在であることは確かだ。

 この論文は世界60カ国の1900年(または独立した年)から2020年までのデータをカバーしている。

 GDPで見るなら1955年と2015年の両方で世界全体の95%を、そしてその政治指導者1482人(うち数人は2回以上)をそれぞれ分析対象にしている計算だ。

 論文はいろいろな現実を浮き彫りにする。まず、ポピュリズムは2018年に政治の面でピークを迎えた。

 ポピュリストがひとたび国のリーダーになると、その後もポピュリストが誕生する公算が高まる。経済危機もポピュリストによる支配の公算を高める。

 また、ポピュリストは国家指導者の地位を平均8年維持する傾向があり、非ポピュリストの2倍長続きしている。