(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年10月15日付)
相互関税発動は意外にも世界経済減速にあまり“貢献”しなかった(4月2日、写真AP/アフロ)
世界経済は今、どんな状況にあるのか。筆者の同僚テジ・パリクが先日指摘していたように、複雑で分かりにくいというのがその答えになる。
これは意外なことではないはずだ。
この世界ではマクロ経済における明らかな不確実性の一部――例えば多くの重要な国々の財政赤字と債務で見られる不穏なトレンド――に加え、2つの大きな出来事が進行している。
一つは、米国が世界の覇権国家の座から降りること。
もう一つは、人類史上最も重大な技術革新になるかもしれないもの――人工知能(AI)――が制御されないまま姿を現しつつあることだ。
これでは、我々が当惑するのも無理はない。
しかし、世界経済がショックや不確実性に(少なくとも今のところは)うまく対処していることは、特筆に値する。
これは今年の国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会にてクリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事が行った開会の挨拶と、IMFによる最新の世界経済見通し(WEO)の両方で取り上げられた主要なテーマだ。
IMFは、今年と来年には経済成長が比較的小幅に減速すると見ている。言うまでもないが、このような結論はそれ自体、非常に不確実だ。
だが、今年に入ってから起きていることとは矛盾しない。大騒ぎになった場面があったにもかかわらずだ。
予想ほど大きくなかった関税の影響と民間部門の柔軟な対応
なぜ世界経済は比較的好調なのだろうか。ゲオルギエバ専務理事とWEOは4種類の説明を提示している。
高率関税の影響が恐れていたほどには大きくないこと、民間セクターが順応できたこと、金融環境の下支えもあったこと、そして政策ファンダメンタルズが改善されていたことだ。
第1に、米大統領のドナルド・トランプが2025年4月2日のいわゆる「解放の日」に当初示した水準ほどには関税率が上がっていないというのは、その通りだ。
ゲオルギエバによれば、「米国の関税率の加重平均値は、4月には23%だったが今では17.5%に低下している」。
また、報復の発動も意外なほど少ない。とはいえ、この関税率はまだ高い。
第2に、民間セクターの対応も寄与している。短期的には特にそうだ。
例えば、WEOが指摘しているように「家計と企業は関税率の上昇を見越して消費と投資を前倒しした」。
また、税率の引き上げが遅れたことも、企業による価格改定の延期を可能にした。
輸出業者と輸入業者も価格上昇の一部を吸収した。だが、それでも価格転嫁は現在進行中だ。
関税は有害な税だ。最終的には、世界経済における生産高の構成と成長を歪めることになるだろう。