(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年10月23日付)
パリの自宅を出て刑務所に向かう二コラ・サルコジ元大統領(10月21日、写真:AP/アフロ)
米アップルが初代「iPhone」を発売した日に生まれた人が選挙で投票できる年齢になった。18年も経てば、先月発売されたiPhoneの最新版が初代とは似ても似つかぬものになっていると人は考えるかもしれない。
どれほど改良が積み重ねられたとしても、そうはなっていない。
だが、それを言えば、同じ18年前に作られた乗用車が今日道路を走っていても場違いな感じはしないだろう。
また、2007年にフランス大統領に選ばれた時のニコラ・サルコジの写真と、つい先日刑務所に移送された時のサルコジの写真を見比べてみるといい。
本人の白髪が増えたことを別にすると、2枚の写真が異なる時代に撮られたものだとは分からないのではないだろうか。
分かるとしても、同じく18年の隔たりがある1989年と2007年の写真を見分ける時より時間がかかるはずだ。
技術的な変化vs政治的な変化
この比較をもう一度やってみよう。ただし、次に取り上げるのは技術的な変化ではなく政治的な変化だ。
初代iPhoneが登場した時、世界は比較的平和だった。
西側の民主主義国にはほとんど例外なく強固な中道派が存在していた。米国と中国は近い関係にあり、貿易を推進しようとする合意もできていた。
それが今ではどうか。欧州では根源的な悪意から地上戦が繰り広げられており、西側のすべての国々で極右勢力が政権を握ったり握ろうとしたりしている。
米中関係は緊張から敵意へ転じ、新しい理論で自由貿易を擁護したデビッド・リカードは面目丸つぶれだ。
今の時代にドラマをもたらしているのは民間のイノベーションではなく、公的部門の活動だ。世の中の「論議」からは、常にそれが分からないだろう。
ひょっとしたら筆者は今年、会議や夕食会に参加しすぎたのかもしれない。
だが、人々は――頭脳明晰な人々でさえも、いや、むしろそういう人々こそ特に――技術のことを考えすぎ、政治のことを考えなさすぎる状態に入り始めているように感じる。
人工知能(AI)のことばかり話しているのもそうだが、それだけではない。
米アマゾン・ドット・コムの創業者のジェフ・ベゾスは「数百万人が宇宙で暮らす」時代が「20年後かそのあたりまでに」到来することを想像している。