近未来の現実的なシナリオを見よ

 さて、地球人よ、もっと近い未来の政治における完全に現実的なシナリオをいくつか紹介しよう。

 フランスで極右の大統領が選出される。大統領は欧州連合(EU)をあえて離脱せず、EUが機能停止に至るまで内部から妨害活動を行う。

 そしてロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、同条約第5条及び第6条で「武力攻撃」に該当すると思われる行動を取る。

 アフリカのサヘル地域は西側世界の攻撃基地になる。

 2007年にはテロで命を落とす人などほとんど皆無だったが、今ではこの地域が地球上のテロ関連死の過半数を占めている。

(2000年前後のアフガニスタンのことを想起すると分かりやすいが、今回は欧米にとってはるかに近い場所になる)

 さらに、英国かフランス、もしくはその両方が債券危機に見舞われる。

 うまくいけば、この危機は経済政策に必要な変更が加えられる引き金になるが、最悪の場合は社会不安を引き起こす――。

 もちろん、こうしたテーマが論じられていないわけではないが、そこに割かれている酸素の量は技術をめぐる議論のそれに比べればけた外れに少ない。

 経験則では、政治に対する関心が圧倒的に少ない「未来学者」の話は疑ってかかるべきだ。

 AIをめぐる最も壮大なビジョン――巨大な消費者余剰と大量失業の発生――は実現する可能性がある。

 だが、習近平(72)やウラジーミル・プーチン(73)の退任は「確実に」実現し、中国とロシアはもとより諸外国の多くの人々にさえ影響をもたらす。

 そこで生じうる結果も多岐に及ぶ。

 西側の国々とユーラシア大陸の独裁国家が新世代の指導者の下でデタント(緊張緩和)を実現する可能性もあるだろうし、考えるだけでぞっとするような、さらに激しい紛争が起きる可能性もある。