米アップルのティム・クックCEO(10月28日、トランプ大統領の来日に合わせて訪日し財界人との会食で、写真:AP/アフロ)
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 米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)が10月中旬、中国を電撃的に訪問し、政府高官に投資拡大を約束した。

 この動きは、同社が米中対立の激化を背景にサプライチェーン(供給網)の「脱中国依存」を加速させるなかで行われたもので、巨大IT企業が直面する複雑な地政学リスクと、その巧みなバランス戦略を浮彫りにしている。

CEO訪中の狙い、中国に投資拡大を約束

 英ロイター通信などが報じたように、10月15日、クックCEOは北京で中国の李楽成・工業情報化相と会談した。

 中国工業情報化省の発表によると、クック氏は中国への継続的な投資拡大を表明。これに対し李氏は、アップルを含む外資企業にとって良好なビジネス環境を整備すると応じた。

 この会談は、アップルにとって重要な意味を持っていた。

 直前に、新型スマートフォン「iPhone Air」の中国発売に不可欠な「eSIM(イーシム)」機能の商用試験が、中国移動(チャイナモバイル)など大手通信3社で承認されたばかりだったからだ。

 eSIMは物理的なSIMカードを不要にする技術で、本体の薄型化に貢献するが、中国では長らく規制対象だったと、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は伝えている。

 今回の承認は、アップルが中国市場でビジネスを円滑に進める上で、中国政府との良好な関係が依然として重要であることを示している。

 クック氏の投資拡大の約束は、この規制緩和に対する謝意と、今後の協力を確約するメッセージだったとみられる。

加速する「脱中国依存」、インドシフトの現実

 しかし、今回の親密なやり取りの裏で、アップルは生産拠点の脱中国依存を猛スピードで進めている。主な移管先はインドだ。

 今年8月には、新型「iPhone 17」について、発売当初から最上位モデルを含む全4機種をインドで生産・出荷する体制を整えたことが報じられている。

 これまで新型モデルの生産立ち上げは中国が数カ月先行するのが慣例だった。これは、その慣例を覆す大きな変化だ。

 背景にあるのは、トランプ政権下で激化した米中対立に伴う関税リスクの回避だ。

 アップルはサプライチェーンの多様化を急ぎ、インド国内の生産拠点を5工場に拡大。インド財閥タタ・グループの役割も増しており、生産移管は本格的な段階に入っている。

 今年4月から7月までのインドからのiPhone輸出額は75億ドル(約1.1兆円)に達し、前年度の総額の半分近くに迫る勢いを見せている。