AMDの現行AIチップ「MI350」(6月12日、写真:ロイター/アフロ)
米エヌビディア(NVIDIA)が市場の9割以上を占めるAI向け半導体市場の構図が、大きな転換点を迎えようとしている。
10月中旬、クラウド大手の米オラクルが、エヌビディアの競合である米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の次世代AI半導体を大規模採用すると発表した。
この動きは、AI開発の覇権を握る米オープンAIを中心とした、計算資源(コンピュート)確保の潮流と連動している。
背景には、特定の企業への供給依存から脱却し、より健全な競争環境を模索する業界全体の構造的な変化がある。
クラウド大手がNVIDIAの対抗軸を選択
10月14日、オラクルは自社のクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」向けに、AMDが開発中の次世代GPU(画像処理半導体)「Instinct MI450」を2026年7~9月期から5万基導入する計画を明らかにした。
エンドユーザーが計算能力をリース(賃借)できる「パブリッククラウド」において、その事業者が、Instinct MI450の採用を表明するのは初めてとなる。
このAI基盤は、GPUにとどまらず、AMD製のCPU(中央演算処理装置)やネットワーク機器を最適化したラック規模の統合システム「Helios」として提供される。
システム全体を垂直統合で提供し、高い性能と電力効率を実現するエヌビディアの戦略に対抗するもので、AMDがAIインフラ市場で本格的な競争相手としての存在感を明確に示したといえる。
背景にオープンAIの巨大需要と供給網多角化の狙い
オラクルがこの決断に至った背景には、AI開発競争の激化に伴う計算資源の熾烈な争奪戦がある。
特に、オラクルにとって最大顧客の1社であるオープンAIの存在が大きい。オープンAIは、次世代AIの開発と運用に不可欠な計算能力を確保するため、多角的な手を打っている。
オープンAIは9月にエヌビディア、10月上旬にはAMDとそれぞれ大規模な半導体供給契約を締結。さらに米ブロードコムと提携して半導体の自社設計にも乗り出すなど、供給網の多角化を急ピッチで進めている。
特定の企業に計算資源の供給を左右されるリスクは、事業継続上の大きな課題であり、エヌビディア一強体制からの脱却は喫緊の経営課題だった。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、オープンAIはオラクルとも今後5年間で最大3000億ドル(約45兆円)規模に上るクラウド利用契約を結んでいる。
オラクルにとって、大口顧客であるオープンAIがAMDとの関係を深めている以上、そのニーズに応える形でAMD製半導体を提供することは、ビジネス上、合理的な選択だったといえる。
これにより、「オープンAI(需要家)-オラクル(クラウド事業者)-AMD(半導体メーカー)」という新たな協力関係の軸が形成されつつある。