「将棋電王戦」の記者発表会に登場した首相

 歴代首相や国会議員の将棋に関連するエピソードを紹介する。

 2011年8月に「将棋文化振興議員連盟」が設立された。民主党、自民党、公明党、国民新党、共産党など、超党派で約50人の国会議員が議員会館に集まった。会長には「黄門さま」の愛称で親しまれた渡部恒三(民主)が就いた。

 席上では発起人代表として山東昭子(自民)は、「将棋の発展を図りながら、党派を超えて親睦を深めたい」と挨拶した。

 山東は1970年代にテレビ番組で知り合った芹沢博文九段に、議員会館で将棋の指導を定期的に受けていた。その芹沢の推薦によって、民放の将棋番組で解説棋士の聞き手を務めたこともあった。

 前記の将棋議員連盟の発会式では、ともに元首相の安倍晋三(自民)と鳩山由紀夫(民主)が隣同士で談笑する光景が見られた。当時は民主党の政権下(菅直人首相)で、与野党の対立は現在ほど激しくなかった。

 第二次安倍政権になっていた2013年12月。第3回「将棋電王戦」の記者発表会に、安倍首相が登場した。

 電王戦とは、5人の棋士と5種の将棋ソフトが団体戦形式で対戦する企画。第2回は13年3月から行われ、棋士側が1勝3敗1持将棋(引き分け)と負け越した。AI(人工知能)を搭載した将棋ソフトが驚異的に進化したことは、社会的にも大きく注目された。

 安倍首相は記者発表会の壇上で、第1局の手番を決める「振り駒」を行った。5枚の「歩」を宙に投げ、表と裏の数で先手・後手が決まる。日本将棋連盟会長の谷川浩司九段、主催者であるドワンゴの川上量生会長らが見守る中、安倍首相が駒を投じると、何と5枚とも表の「歩」が出た。その結果、第1局は棋士側の先手番に決まった(第2局以降は交互)。

 安倍首相は「5枚とも歩が出る確率は低いと思いますが、気持ち良かったです。今年は富士山が世界遺産に登録されました。将棋もクール・ジャパンとして世界に発信していきたいですね」と感想を語った。

 2020年9月に菅義偉(自民)が首相に就任した。菅は地元の横浜市の「将棋支部連合会」の顧問を務めていたという。京浜急行沿線のデパートでの将棋イベントの開催も後押ししたようだ。

 2021年10月に岸田文雄(自民)が首相に就任した。その任期中の23年11月、同年10月に史上初の「八冠制覇」を達成した将棋棋士の藤井聡太八冠(当時21)が首相公邸を訪れ、岸田首相から顕彰状と記念の盾が贈られた。懇談の場で岸田首相が「将棋とAIの関係性」を問うと、藤井八冠は次のように語った。

「2010年代からAIが棋士の実力と同等以上になりました。私も2016年からAIを活用して、将棋の研究に取り組んでいます。AIは読みの力が強いですが、一方で局面を判断、評価する力も重要です。私はAIを参考にしながら、それらの能力を強化したいと思っています」

 以上のエピソードのように、歴代の首相と将棋や棋士との関連は意外と多い。

 中でも田中角栄(自民)は将棋を熱烈に愛好した。村山富市(社民)は東京・千駄ヶ谷の将棋会館を首相として初めて訪れた。後日に田中と村山の将棋秘話を記事にする。

※いずれも文中敬称略。