既存の「青信号」では歩行者を守れない?
歩行者や自転車がいくらルールを守って交差点を通行しても、ドライバーの不注意で突然、いとも簡単に人命が失われてしまう。こんなことが許されていいはずはない。
「どうすれば、涼太の未来が奪われずに済んだのか、どうすれば、通学中の子どもたちの命を守れるのか」
涼太さんの事故当日の持ち物。リュックサックは同じ色、サイズのものを黒崎さんが後に買い直した(2025年9月29日穐吉撮影)
苦しみのなかで黒崎さんは、もがくような日々を送った。そしてたどり着いた解決策の一つが歩車分離信号だった。
切り替え直後の横断歩道を渡った人の中に、東京都八王子市から駆けつけた長谷智喜さん(72)の姿もあった。小学5年生だった長谷さんの息子、元喜くん(当時11)は1992年、八王子市内の学校へ歩いて通学中、やはり交差点で左折トラックに命を奪われている。これも青信号だった。
ドライバーの過失は明らかだが、人はミスを犯す。ヒューマンエラーを完全に防ぐことはできない。それならば、1つの交差点で、歩行者等と右折・左折の車の同時侵入を許す「青信号」の仕組みそのものが歩行者を死に至らしめているのかもしれない。これは、信号の不備がもたらす「構造死」なのではないか――。
そう考えた長谷さんは、東京都を相手に裁判を起こし、「歩車分離信号」の必要性を訴えた。その後、「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」を立ち上げ、全国で発生している類似事故を調査し、歩車分離信号の普及に努めてきた。黒崎さんと長谷さんは、タッグを組んで活動することも多い。
歩車分離信号が設置された交差点を渡り、抱き合う黒崎陽子さん(左)と長谷川佐由美さん(右)。群馬県高崎市大八木町で(2025年9月29日穐吉撮影)
群馬県はマイカー王国だ。一般財団法人・自動車検査登録情報協会によると、1世帯当たり自家用車の普及台数は1.56台。都道府県別では全国4位だ。そんな県だからこそ、分離信号整備に率先して旗を振ってほしいと、黒崎さんと長谷さんは群馬県警に要望してきた。
ところが、昨年10月、この交差点で、群馬県警交通部の警部ら4人から直接、「今回、総合的判断から歩車分離信号にしないと決定しました」と告げられたという。一方、前進もあった。街路樹の伐採、路側帯の白線書き直し、ラバーポールと注意喚起看板の設置が約束され、すぐさま実行に移された。