23年ぶりに指針改定、歩車分離信号の設置条件が緩和
「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」によると、2025年3月末現在、全国の信号機20万6398基のうち歩車分離信号は1万416基で、整備率は5.1%に留まっている。群馬県に至っては、2.8%と平均より少ない。
警察庁の統計によると、2024年の交通事故発生件数は29万895件で、ピークだった2004年の95万2720件から約3分の2も減っている。とはいえ、死亡事故の半数近くが交差点とその付近で起こっている。
歩車分離信号の整備については、2002年に警察庁の指針が制定され、全国100カ所の調査で安全効果が立証されている。人対車の事故は約7割減り、地域住民の7割が設置に賛成した。しかし、分離信号によって車の待機時間が長くなることで渋滞を招きかねない。車の交通量、歩行者が多い時間帯など地域ごとに精査せねばならず、一気に歩車分離信号の設置が進んだわけではない。
事態が動いたのは今年1月末だった。警察庁が23年ぶりに「歩車分離信号に関する指針」を改定し、各都道府県警本部に通達したのだ。この改定によって、分離信号設置をめぐる検討条件が大きく緩和された。
それまでは、歩車分離であれば防止できたと考えられる事故が「過去2年間で2件以上発生」だったが、「過去5年間で2件以上発生」か「死亡事故が発生」と改められた。
また、児童らの交通の安全の確保が必要とされる交差点では、歩車分離の要望がなくとも検討されることになった。大八木町交差点は、過去に死亡・重傷事故が起こり、地元の要望もあることから改定後の条件に当てはまった。
歩車分離信号の切り替え工事を見つめる黒崎陽子さん(中)、群馬県高崎市大八木町で(2025年9月29日穐吉撮影)
折りしも息子を亡くしてから10回目の7月、県警交通規制課の担当者が直接黒崎さんに、大八木町交差点が分離信号に変わるという朗報をもたらしてくれた。
「それはもう、すごく嬉しかった」と、黒崎さんは言う。
息子の事故死から、黒崎さんは日常生活を営めなくなり、眠っているのか起きているのか分からないまま日々が過ぎたという。「ごめんね、ごめんね」と、守れなかった息子への謝罪の言葉しか浮かばない。
2カ月後、群馬県警の犯罪被害者支援の窓口と民間の被害者支援センター「すてっぷぐんま」を頼った。心療内科での治療が始まったが、「涼太のお骨のそばを離れられない」と入院を拒み、支援員に付き添われて通院した。
次第に前を向けるようになったのは、心身ともに寄り添ってくれた支援員や家族のおかげだ。「(通院支援は)もう大丈夫です」と支援員に自ら伝えた時には、事故から3年が過ぎていた。