自転車の「原則車道通行」にも課題
黒崎さんはその後、歩車分離信号に関する活動にのめり込むようになる。道路交通法や交通安全対策を学び、疑問があると、警察署や役所に通って教えを請うた。息子のためだった学資貯金を切り崩しながら、64ページに及ぶ事故対策教本を独自に3000部作成、関係者に配布した。
そうした活動の輪は現在、自動車事故対策の専門機関、自動車メーカーの労組、地方議員や国会議員らにも広がった。昨年7月19日、涼太さんが事故に遭った日には、母校の新島学園中学校・高等学校で在校生約1200人を前に講演した。
黒崎さんの活動を見守ってきた「すてっぷぐんま」の元支援員、長谷川佐由美さん(69)は、事故防止活動が黒崎さんの「生きる力になった」のだろうと話す。「涼太が大学を卒業する年までは活動を続けたい」と話していた黒崎さん。その時期が過ぎたいま、長谷川さんは「涼太くん、大学院に進学したと思えば?」と声をかけている。
分離信号の普及とともに、黒崎さんが活動の軸足を置くのが、自転車の安全通行のために道路交通法を学ぶことだ。自宅から高崎市街地方面へ向かう約5キロメートルの間の自転車通行を表した地図の制作に数年前から取り組んでいる。
地図を見ながら、自転車の安全な通行の仕方を説明する黒崎さん。群馬県高崎市棟高町で(2025年8月2日穐吉撮影)
自転車は「原則車道通行」だが、歩道を通行できる場合もある。自転車を取り巻く道路環境やルールが複雑になっているにもかかわらず、普通自動車免許を取る時のように、自転車のルールをきちんと教わる機会は極めて少ないと感じるからだ。
自転車の安全利用促進委員会によると、2024年の統計で群馬県は「1万人当たりの通学時自転車事故件数」において中学生、高校生ともに全国でワースト1位だった。
群馬県高崎市大八木町の歩道にある「普通自転車歩道通行可」の表示と、自転車の通行位置と方向を示す車道の矢羽根型路面表示(2025年8月2日穐吉撮影)
一方、自転車側の加害率では、中学生は全国26位、高校生は36位と低い。群馬県警は県教育委員会と連携して、遠距離自転車通学が多い高校生を対象に安全指導を行う「自転車セーフティープロジェクト」や「高校生自転車交通安全動画コンテスト」など、県独自の対策を展開している。
群馬県の通学自転車の多くは、歩行者を危険にさらすことなくルールを守って運転していることがうかがえる。