温泉で「疲れが取れる」のはなぜか

──温熱作用が人体に与える影響を詳しく教えてください。

早坂:体が温まると血管が広がって血流が良くなります。血液は体の隅々に酸素と栄養を運び、老廃物や疲労物質、二酸化炭素を回収します。これが「疲れが取れた」と感じる仕組みです。40℃程度のぬるめの湯に入ると副交感神経が優位になってリラックスし、慢性痛も温めることで神経の過敏性が下がって痛みが減り、関節も動かしやすくなります。

 温泉に入ると0.5〜1℃ほど深部体温が上がり、およそ1時間半〜2時間で体温がスッと下がると強い眠気が来ます。このタイミングで眠ると睡眠の質が良くなることが報告されています。

──温泉の最大限の効果を引き出す入浴法はありますか。

早坂:温泉に入っても疲れが取れない、逆に疲れてしまったという話はよく聞きます。温泉の最大限の効果を引き出すコツは「温泉を欲張らないこと」なんです。

 温泉に行くと多くの方が「せっかく来たからもっと入ろう」「もとを取ろう」と考えて、ついつい長く入りすぎてしまう。私はいつも、例えば40℃程度のお風呂であれば「10分程度で十分だ」とお話ししています。

 温泉やスーパー銭湯だと10分では済まず、人によっては1時間と長々入っている方もいます。「湯疲れ」なんて言葉もありますが、この「湯疲れ」とは簡単に言うと、軽い熱中症のことです。体温が上がりすぎてしまって、逆にだるさを感じてしまう。

 特に温泉に慣れていない時は1日に何度も湯船につかる必要はなく、1日1回でも十分です。せっかく温泉でお湯につかりたいのであれば、1回あたりの入浴時間を短くするといいでしょう。例えば一度入ったら少し汗が滲む程度、5分くらいでさっと出る。いったん出て休憩してからまた5分くらい入るといった形で、温泉に長く入りすぎないことが大事だと思います。

──温熱作用以外にも温泉の効能はありますか。

早坂:「温泉が体に良い」といっても、温泉水を自宅に運んで自宅の湯船に入れても同じ効果は得られないと言われています。

 温泉地を訪れるということは、自宅とは違った場所に移動するということです。自宅から離れて、日常とは別の場所に行くことによって、環境を変えてストレスから離れる。それを「転地効果」と言います。完全に家や仕事から離れて温泉地を訪れると、大きなリフレッシュ効果が生まれます。