インドネシアでデング熱対策のために殺虫剤を噴霧する作業員。蚊が媒介する感染症は世界中で問題になっている(写真:AP/アフロ)
(岸 茂樹:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員)
蚊が媒介する感染症のリスク
急に肌寒くなってきたが、こうしたときに限って蚊に刺される。都市から多くの昆虫がいなくなっても、蚊とゴキブリはなかなかいなくならない。蚊は、人から出る二酸化炭素に反応して寄ってくることはよく知られている。少し前には、足の匂いが強いと蚊に刺されやすいことを明らかにした高校生の研究が話題になった。
今回は地下の小さな水たまりでもしぶとく生き続ける蚊の生態と、そのリスクについてまとめる。
蚊は身近な昆虫であるとともに危険な病気を媒介するため、日本国内でも重要なリスクになっている。2014年には東京でデング熱が発生し、大きなニュースになったのは記憶に新しい。温暖化も手伝って、デング熱だけでなく、ウエストナイル熱、チクングニア熱、黄熱、ジカ熱、マラリアなどの日本での発生が懸念されている。
先日まで開催されていた大阪万博でも、これらの感染症の対策が盛り込まれており(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)、重要なリスクとして捉えられていたことがうかがえる(*会場でユスリカが大発生して話題になったが、ユスリカは蚊ではなく、口器が退化していて吸血しない)。
国立健康危機管理研究機構が発表している感染症のデータに、蚊が媒介する感染症も届出件数が公表されている(図1)。届出件数の多くは空港で「発熱のある方」を検査した結果を示している。ここ数年では国内感染はないと見られるが、デング熱の国内届出数は年間80件程度ある。国内での感染発生のリスクは引き続き存在していると見てよいだろう。
【図1 蚊が媒介するデング熱とマラリアの国内届出件数の推移】
注:マラリア件数は合計値。データは国立健康危機管理研究機構より。