イラクやケニアをはじめ多くの国でアメリカの対外支援は難民の命を支えていた(写真提供:ピースウィンズ・ジャパン)
トランプ政権は就任から2カ月も経たないうちに60年以上の歴史を持つUSAID(米国際開発庁)を解体し、対外援助の大部分を打ち切った。最貧国や紛争地域への食料支援や医療支援が途絶えた結果、9月末までに最大50万人以上が亡くなったと見積もられており、このままの状態が続けば、2030年までにさらに1400万人の死者が出るとの予測もある。
こうした直接的な影響のほかに、アメリカのソフトパワーが減退して生じた空白を中国が埋めることで生じる間接的な影響もある。これが世界にとって、日本にとって何を意味するのかを検討する報告書『米国の対外援助削減 日米協力に与える影響』の作成を委託した米日財団代表理事のジェイコブ・スレシンジャー氏に話を聞いた。
──今年1月の第2次トランプ政権発足以来、衝撃的なニュースが次々と飛び込んできます。今、アメリカで起きていることをどう表現しますか?
スレシンジャー:トランプ大統領がやっていることは「ノーマルの再定義」です。この数日だけでも、元大統領補佐官や元FBI(米連邦捜査局)長官、ニューヨークの州司法長官が起訴されるなど衝撃的なことが日々起きています。
従来の政治では考えられないような異常なことをやっているのに、大した反発も受けずにまかり通ってしまう。そのために、何が「正常」なのかの基準が刻々と変わっていくような状態です。
トランプ政権がやっている移民政策や政府解体などを支持するかと選挙前の去年10月に有権者に聞いていたら、多くの人が「ノー」と答えたでしょう。それでも、政権が現行の政策をすぐに変更しなければならないと考えるほど深刻な反発はありません。
確かに、この週末「王様はいらない」という大規模な抗議活動が全米各地でありました。ただ、それはもっぱら以前からトランプに反発していた人たちのエネルギー集積であり、議会や裁判所、あるいは共和党が強い州で政権に政策変更を迫るような新たな抗議活動ではありません。
トランプの支持率は高くはないけれど、45%程度から下がっていません。もし1年前に聞かれたら、民主主義の基本を支持する広範なコンセンサスがアメリカ国内にあると私は答えていたと思いますが、今となっては心許ない状況です。
──トランプ政権の施策によって健康保険を失ったり掛け金が激増する人が出たり、関税に伴うインフレが起きるなど、一般市民は痛みを感じていないのでしょうか?
スレシンジャー:痛みを感じるのはこれからだと思いますが、たとえそうなったとしても、ひとつ考えておかなければならないのは、メディア・エコシステムの崩壊です。
「なぜそうなっているか?」「どこに原因があるか?」といった説明、ナラティブ次第で矛先が別のところに向けられるかもしません。伝統的メディアがナラティブを独占できた時代とは違うので、先の予測はつきません。