日本株は自民党総裁選後、「高市トレード」で上昇したが、個人投資家はどう動くべき?(写真:つのだよしお/アフロ)
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ゴールドマン・サックスの元トレーダーだった宇根尚秀氏はかつて、デリバティブ(金融派生商品)や個別株の取引を駆使して短期勝負で巨額の利益を上げていた。だが、宇根氏はいま、個人投資家が勝ち続けるには、かつて自身が富を築いた手法とは正反対の長期分散投資を勧める。その手法を、『最後に勝つ投資術 【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略」』(ダイヤモンド社)にまとめた。宇根氏に、ゴールドマン・サックスのトレーダーを経て長期分散投資に目覚めた経緯と、個人投資家が学べる実践術を聞いた。

(種市 房子:ライター)

基本は「現金50:オルカン50」

——ゴールドマン・サックス勤務から、長期分散投資を勧める現在の境地に至った経緯を教えてください。

宇根:大学院修了後、専門として学んだ統計学をマーケット分析に生かすべく、ゴールドマン・サックスに入社しました。そこでは、個別株やデリバティブのトレードで短期収益を積み上げて毎年毎年利益を作り出すプロの勝負師として働きました。

 15年勤務して、「デリバティブはやり切った」「日本に貢献したい」「もう少し広い世界で仕事をしたい」という思いがあり、ゴールドマン・サックスを辞めました。こうした思いをかなえられる場として、ゆうちょ銀行からお声がけいただき、200兆円の大口投資家として運用に当たりました。

 ゴールドマン・サックスでは金融商品の値上がり益も含めた短期のリターンが問われる一方、ゆうちょ銀では、配当や利子を安定的に確保できるような運用が評価されます。ゆうちょ銀で初めて、長い時間を確保して投資をすること自体が武器になり、分散投資することで勝率を上げられることを理解できました。

宇根尚秀(うね・なおひで)
1975年生まれ。インベストメントLab代表取締役。2000年東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。2009年同マネージングディレクター。2015年ゆうちょ銀行入行。運用企画・投資資産配分・組織体制の整備に従事。2019年JP インベストメント最高執行責任者(COO)兼務、早稲田大学ファイナンス学科修士課程(MBA)修了。2020年に独立し、インベストメントLab設立。ベンチャーキャピタルと上場株ファンドを運営。

——その後、どのようなキャリアを歩んだのでしょうか。

宇根:投資運用の世界での一介のプレーヤーに戻ろうと、会社を立ち上げ、大手の組織で学んだ投資手法をファンドとして実践しています。またボランティアとして高校生や大学生への金融教育の現場にも時折呼んでいただいています。

——なぜ、分散投資が必要なのでしょうか。

宇根:株式だけ持っていても、リーマン・ショック級の経済ショックがあれば、資産価値は5割程度に減ってしまいます。株式にすべての資金をつぎ込むのはリスクがあります。もっともシンプル・合理的な長期分散投資の配分はオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式=オール・カントリー)50%、現金50%です。株式がリーマン・ショック級の下落をこうむっても、現金の価値は変動せず、全体では2~3割の損失にとどまります。