「エスカレーションこそがウクライナを譲歩に追い込む最良の手段」
ディキンソン氏は「プーチンはエスカレーションを恐れる西側の心理を利用して支援を制限してきた。トランプ氏がこの恐怖に屈せず、プーチンの虚勢を見抜いて圧力を強めてこそ初めてロシアに真の交渉を迫ることができる」と指摘する。
戦争研究の第一人者、英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は自らの有料ブログ(10月14日付)で「プーチンの勝利理論」と題し「ウクライナ戦争は最終的には交渉による停戦に終わる可能性が高いが、現時点ではその兆しはない」と分析する。
プーチンもゼレンスキー氏も有利な立場で最終交渉に臨むことを目標に戦争を続ける。トランプ氏とのアラスカ会談後、プーチンはトランプ氏がウクライナ支援を強化しないと確信し「軍事的エスカレーションこそがウクライナを譲歩に追い込む最良の手段」と判断したとされる。
プーチンは前線での成功を誇張し「勝利が間もなく訪れる」と楽観的に考えている。その根拠となるロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長の報告は誇大で虚偽が多い。「ウクライナ軍は崩壊寸前」「兵員が47〜48%しか充足していない」という見方は根拠に乏しい。
ロシアはウクライナに痛みを与える力はあるが、決定的勝利には至らない。両軍とも消耗が激しく、短期的に勝敗はつかない。プーチンに「戦争を続ける理由」はあるが「勝利できる理由」はないとフリードマン氏は解説する。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。



