(写真:つのだよしお/アフロ)
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 10月4日開票の自民党総裁選で、高市早苗氏が決選投票で小泉進次郎氏を破って総裁に選出された。第29代にして初の女性総裁。近く首相に指名される見通しだが、「女性初」と言われてもどういうわけか心踊らない自分がいる。政治分野が足を引っ張っているジェンダーギャップ指数(2025年の調査では148カ国中118位)は上昇するだろう。

 でも、総裁選挙中、女性を取り巻く諸問題について、何かしらそれらがより良い方向に向かっていくような主張を彼女はどれだけしていただろうか。

 振り返れば、そもそも総裁選において、女性政策などまるで話題にならなかった。やたらと耳にした「フルスペック」というフレーズの語感とは裏腹に。

昨年も「フルスペック」だったはずだが

 昨年は0、今年は218。

 2年連続で自民党総裁選が行われることになったことを受け、昨年9月の1カ月と今年9月の1カ月でそれぞれ、関東6、関西6のキー局で放送されたテレビ番組概要のデータベースで、「総裁選」+「フルスペック」とキーワード検索した結果だ。

 昨年は9月12日告示・27日開票、今年は9月22日告示・10月4日開票と、多少のずれはあるものの、告示が9月であることには変わらず、選挙方式について報じる記事はいずれも9月に集中していた。ちなみに、全国紙、ブロック紙、通信社、スポーツ紙の見出し・記事検索をすると、昨年は1、今年は171と出てきた。

 ほぼ同じ時期に、ほぼ同じ顔ぶれで2年連続で行われた自民党総裁選は、昨年も今年と同様、国会議員だけでなく全国の党員や党友が参加する選挙として実施された。いわゆる「フルスペック」型と言われる方式なのだが、どういうわけか、フルスペックだったはずの昨年は、「フルスペック」という言葉を耳や目にすることはなかった。しかし今年は違った。

「フルスペックで総裁選を実施する方針固める」などと記者クラブメディアが前打ち報道をし始めた9月8日あたりから、自民党で総裁選挙管理委員会や総務会と続いた数日間、テレビも新聞も「フルスペック」一色。今年の新語・流行語大賞受賞へ一直線さながらの騒ぎようだった。

「全国の党員・党友のみなさまの声を直接反映する、いわゆるフルスペックの選挙を通じて新たな総裁を選出することがもっとも望ましい」。方針決定後、森山裕幹事長が手元の原稿を丁寧に読み上げる映像を見た。おそらく、日常会話でフルスペックなんていう言葉は使ってこなかったであろうことだけはわかった。

「フルスペック」は全力アピール

 7月の参院選で新興政党が大躍進し、苦戦を強いられたことへの危機感だろうか。やたらと喧伝したこのヨコモジには、結党以来の危機的状況の中、全国のみなさんの声をしっかり聞いていますという姿勢とともに、若い世代へアピールしたい狙いも込められていたのだろうな、と察した。

 フルタイム、フル回転、フルコース。「フル」というフレーズによって、盛りだくさん感と一生懸命っぽさはなにやら伝わってくる。でも結局、1年前の総裁選とまったく同じやり方だし、なんなら、単に「簡易型ではない」というだけのことですよね?