カルフォルニア州サンタ・ローザにあった「ファウンテングローブ」の遺構。2017年10月北カルフォルニア火災で消失 フランク・シューレンバーグ, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
(町田 明広:歴史学者)
長澤鼎のずば抜けた学業成績
慶応元年(1865)6月、薩摩スチューデントはロンドンに到着した。長澤鼎は、まだ13歳という年齢の関係から、ロンドン大学には入れず、スコットランドのアバディーンにあるトーマス・グラバーの実家に寄宿しながら、地元のジムネイジウム中学に通学した。その在籍期間は、1865年7月中旬から1867年夏頃までの2年間であった。
長澤は薩摩藩の開成所で抜群の成績を収めたため、弱冠13歳で薩摩スチューデントに抜擢された。その優秀さは、イギリスにおいて開花したことが証明されているが、世界で通用するレベルであった。長澤は地元の新聞に、ラテン語、英語文法・読解、聖書演習、歴史、地理、フランス語などの科目で成績優秀者として、その名前が掲載されるほど、卓越した成績を獲得しているのだ。
長澤鼎の実際の成績
それでは、実際に成績優秀者として、新聞に掲載された科目や順位を確認してみよう。なお、これに加えて数学・算術についてもPrize List(年次表彰者一覧)に含まれている旨の言及がある。ちなみに、スコットランドの多くの学校では、現在でも学年末において、 Prize-Giving Ceremony(表彰式)を行い、同時に Prize List を印刷・配布している。
1866年(Aberdeen Free Press, 22 June 1866、慶応元年)
Latin(ラテン語):1位
English Grammar(英語文法):1位
English Reading(英語読解):3位
Scripture Exercise(聖書演習):2位
History(歴史):5位
Geography(地理):1位
Writing(penmanship/習字・書字):3位
1867年(Aberdeen Free Press, 21 June 1867、慶応2年)
Latin(ラテン語):1位
Latin Composition(ラテン語作文):2位
English Grammar and Reading(英語文法・読解):1位
Scripture Exercises(聖書演習):2位
Writing(筆記):1位
French(仏語):2位
Elementary Drawing(初等デッサン):9位
この長澤鼎の圧倒的な学力には、茫然自失の思いである。渡英前に、英語をどの程度学んだかは不分明ながら、ほぼ初習言語に近いと思われる英語を、あっという間にネイティブ・レベル以上にマスターし、これらの科目で1位を多数含む優秀な成績を収めたことに驚きを禁じ得ない。しかも、英語にとどまらず、ラテン語1位、フランス語2位という語学の才能は、信じがたい事実であろう。長澤鼎、恐るべしである。
