サンフランシスコで自動運転中のウェイモ(9月4日、写真:AP/アフロ)
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 米国の自動運転業界では、未来の都市交通の主導権を巡る巨大テック企業間の競争が新たな局面を迎えている。

 中でも特に、電気自動車(EV)大手の米テスラと米アルファベット傘下のウェイモが展開するロボタクシー(完全自動運転タクシー)事業で、両社のアプローチの違いがここ数カ月で一層鮮明になった。

 テスラがAIによる革命的な速度での普及を目指す一方、ウェイモは安全性と地域との協調を最優先に、着実な拡大戦略を堅持する。

 両社の対照的なアプローチは、巨大市場の未来だけでなく、自動運転が私たちの暮らしにどのように普及していくかをも左右することになるだろう。

AIとカメラで世界展開狙うテスラ

 テスラを率いるイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が描くのは、AI主導による破壊的かつ迅速な市場獲得だ。

 同社は今年6月、テキサス州オースティンで招待制のロボタクシー試験サービスを開始。

 マスク氏はその直後、年末までに「米国人口の半分」が利用可能になるだろうとの野心的な見通しを示した。

 この構想の中核は、テスラ独自の技術アプローチにある。

 LiDAR(レーザーレーダー)や高精細マップに依存する競合他社とは一線を画し、テスラは車両に搭載されたカメラからの映像情報をAIが人間のように解釈し、即座に運転判断につなげる「エンド・ツー・エンド(E2E)AI」方式を採用する。

 これにより、都市ごとに詳細な地図データを作成したり、長期間にわたって路上試験を行ったりといった手間を大幅に省けるというのが同社の主張だ。

「米国の数都市で機能すれば、どこでも機能させられる」というマスク氏の言葉は、この技術への絶対的な自信の表れだ。

 テスラがこの「AI革命」を急ぐ背景には、中核事業であるEV販売の減速という厳しい現実がある。

 欧州市場での不振や競争の激化を受け、ロボタクシー事業は同社の次の成長を支える重要な収益源として期待されている。

 6月下旬に実施した「完全無人での新車納車」も、こうした逆風下で「技術のテスラ」を強く印象付け、投資家や市場の信頼をつなぎ止める狙いがあったとみられる。