写真:ロイター/アフロ
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 米国の厳しい輸出規制が、中国の技術開発の様相を一変させつつある。

 8月下旬、中国ネット通販大手アリババ集団が独自の新型AI半導体を開発したことや、中国全体で来年のAIプロセッサー生産量を3倍に増やす計画が相次いで報じられた。

 これらは、米国製先端半導体へのアクセスを断たれた中国が、単なる代替品の開発にとどまらず、独自技術エコシステム(経済圏)の構築による「完全な技術自立」へと本格的に舵を切ったことを示す動きだ。

 米国の規制が、その意図とは異なり、中国の国産化を強力に後押しするブーメラン効果を生んでいる。

国産化へ総力戦、エヌビディア不在の市場埋める

 今夏、中国の半導体国産化に向けた動きが顕著になった。

 同国最大のクラウドコンピューティング企業であるアリババは、米エヌビディア(NVIDIA)大口顧客である。

 しかし8月末、アリババが幅広いAIの「推論(inference)」処理に使える汎用性の高い新型半導体を開発したと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。

 注目すべきは、この半導体が中国国内の工場で製造され、かつエンジニアが慣れ親しんだエヌビディアの開発プラットフォームとの互換性も確保している点だ。

 米国の技術から離反するのではなく、現実的な移行戦略を採ることで、国内での普及を狙う。

 生産体制の強化も急ピッチで進む。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、中国は来年、AIプロセッサーの国内総生産量を現在の3倍に引き上げる計画。

 その中核を担うのが、米国の制裁下にある中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)向けの半導体製造工場だ。今年末から来年にかけて新たに3つのファーウェイ向け工場が稼働するという。

 中国最大の半導体受託製造(ファウンドリー)、中芯国際集成電路製造(SMIC)は、最先端の7ナノメートル品の生産能力を倍増させる計画だ。

 これによりアリババや、エヌビディアの競合といわれる中科寒武紀科技(カンブリコン)といった他の設計企業も、これまで以上の生産能力を確保できるようになる見通しだ。