8月下旬、ドナルド・トランプ米大統領が欧州連合(EU)などを念頭に、デジタル分野の規制を巡り強硬姿勢を示した。
追加関税や制裁も辞さない構えに、大西洋間の通商関係に再び緊張が走っている。
米欧が関税交渉で一時的な「休戦」に合意した直後のこの動きは、貿易摩擦という枠を超え、インターネット空間のルール形成を巡る双方の統治思想の違いを浮き彫りにした。
何が起きたのか:トランプ氏による突然の警告
発端は8月25日、トランプ大統領の自身のSNSへの投稿だった。
大統領は、EUや英国などが導入するデジタルサービス税(DST)や、巨大テック企業への規制を定めた「デジタルサービス法(DSA)」および「デジタル市場法(DMA)」を具体的に挙げ、それらは「米国テクノロジーに損害を与え、差別するように設計されている」と断じた。
その上で、これらの措置を撤廃しない国には「相当の追加関税」や「高度に保護された技術および半導体に対する輸出規制」を課すと警告した。
狙いは明確だ。
米グーグル、米メタ、米アマゾン・ドット・コムといった米国の巨大テック企業を主な対象とする欧州各国の規制に対抗し、その撤回を迫ることにある。
トランプ氏は、これらの規制が結果的に米国企業から富を奪う「(彼らの)貯金箱」として機能していると主張。米国の国益を守る断固たる姿勢をアピールした。
対立の深層:単なる税制から「検閲」問題へ
しかし、今回の対立の根は、税制や市場競争の問題よりさらに深い所にあるようだ。
英ロイター通信の報道によれば、トランプ政権はEUのDSAを問題視している。
同法が義務づける違法・有害コンテンツ対策は、保守的な言論を封じ込める「検閲」であり、米国民の言論の自由を不当に抑圧する、との懸念が米政権内で深刻化しているという。
その後、マルコ・ルビオ国務長官がDSAに反対するよう欧州の米外交官にロビー活動を指示する事態にまで発展。
水面下では、DSAの施行責任者であるEUや加盟国の当局者への制裁も検討されていた。これは、ビザ発給の制限という、同盟国間では前例のない強硬策だった。
米政権がこの問題を、単なる経済的利益の対立ではなく、思想信条に関わる重大な脅威と捉えたことがみて取れる。
