都市対抗野球で優勝し喜ぶ王子ナイン(写真:共同通信社)
(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
社会人野球の「企業チーム」の潮流が変わってきた。
かつては親会社の業績不振でリストラの象徴として休廃部に追い込まれ、減少の一途をたどった時期もあった社会人野球が、近年は再び増加傾向へと転じている。新たに創部する企業は、大企業が社名の浸透や社員の一体感を醸成する福利厚生を目的として抱える従来型から脱却し、「若手の人材獲得」の切り札として活用する。
選手にとっても、「仕事との両立」で就職後も学生時代に打ち込んだ野球を続けられることは魅力的なようだ。企業チームの減少を地域に密着したクラブチームが受け皿となって支えた時代を経て、「令和の社会人野球」は日本が抱える人手不足が新形態を生み出す契機となっている。
企業チーム数が回復傾向
9月8日に閉幕した今夏の「都市対抗野球大会(都市対抗)」は、優勝した王子、準優勝の三菱自動車岡崎をはじめ、トヨタ自動車、日本生命、JR東日本、NTT西日本などの名だたる大企業が、東京ドームを舞台に熱戦を繰り広げた。そんな社会人野球は近年、チーム数が増加に転じて盛り返している。
日本野球連盟によれば、企業チーム(会社登録チーム)のピークは1963年の237あった。ところが、90年代以降はバブル崩壊やリーマンショックを受け、会社の業績悪化を理由とした休廃部によって一時は70台と3分の1程度まで落ち込んだ。そのチーム数が90を超えるまでの回復基調にあるのだ。
メディアもこの状況に注目する。日経MJが今年6月13日付で「社会人野球は令和の愛社シンボル 企業チーム数、02年以来の高水準」と題した特集記事を組み、読売新聞も6月21日付で「社会人野球に再び光、企業チーム増加中…昔のように競技専念ではなく『仕事との二刀流人材を育成』」、さらに週刊プレイボーイは、紙面掲載に次いでWEB版「週プレNEWS」でも9月2日付で「復活! 令和の『社会人野球ブーム』最前線」との見出しで取り上げた。
これらの記事を読み解くと、近年の企業チームの増加要因が見えてくる。
まず企業側の最大のメリットは、「若手の体育会系人材の確保」だ。