弁護士同席で会見場に入り、頭を下げる広陵・堀正和校長(手前)=2025年8月10日撮影(写真:スポーツ報知/アフロ)
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(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 夏の甲子園(第107回全国高校野球選手権大会)で初戦を勝ち上がった広陵(広島)が、大会史上初となる不祥事による途中辞退へと追い込まれた。今年1月に部内で生じた暴力事案に端を発した批判や誹謗中傷がSNS上で広がったことがきっかけだ。暴力事案は、日本高校野球連盟(高野連)に報告済みで、3月に厳重注意処分などを受けていた。

「済んだこと」になり、高野連も学校も学生野球憲章の処分基準に則って公表もしていなかった。ところが、今大会を前にSNSで明るみに出て大炎上。別の暴力事案があるとの情報も拡散され、広陵は経過報告を公表したが“後出し”と受け取られて事態は収まらなかった。SNS時代のスピードを見誤り、初動から対応が後手に回ったことが異例の事態を招いた。

名門校が落ちた「情報の洪水」

「情報の洪水」(高野連の宝馨会長)と化したSNS上の投稿は、多数のプロ野球選手を輩出し、春に3度の全国制覇を誇る名門校を、瞬く間に批判と誹謗中傷の渦へと突き落とした。

 読売新聞の11日付記事によれば、SNS分析ツール「ソーシャルインサイト」でX上の広陵に関する投稿数(リポストを含む)を分析した結果、8月3日は490件だった投稿が、4日には1万2000件へと急増。学校が暴力問題を認めた6日には26万件を突破したという。

 SNS上ではこの事案とは別に、元部員が監督やコーチ、一部の部員から暴力や暴言を受けたという情報も広がった。出場辞退を発表した前日の9日までに、投稿数は80万件に上ったという。

 この間、高野連は8月5日に厳重注意の事実を公表し、学校も翌6日に暴力行為を明らかにした。24年3月に学校に深刻があった別の事案がSNSで拡散されると、学校は、チームが初戦に勝利した翌8日にホームページを更新し、「事実関係の調査を実施したが、指摘された事項は確認できなかった」とした上で、6月に第三者委員会を設置して、調査中であることを公表した。

 しかし、SNS上での真偽不明を含めた情報拡散のスピードに比べ、慎重を期す事実認定には時間を要することは当然だろう。初動でつまずいた情報発信は、最後まで後手に回った印象を拭えなかった。