首相官邸での記者会見で辞任を表明した石破茂首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
石破茂首相が辞任を表明しました。直接の原因は、7月の参議院選挙での敗北。昨年の衆議院選挙、今年の都議会選挙、そして参院選、これらを「3連敗」したというのが、自民党内でおきた「石破おろし」の理由です。選挙に負けて首相が辞めるのはもう見慣れた光景ですが、これは本当に日本にとって良いことなのでしょうか。
(瀬尾傑:スローニュース代表)
選挙責任文化と短命政権の連鎖
ここでいうのは石破さん個人の資質ではありません。日本の政治構造そのものの問題です。
日本の政治には「選挙に負ければ総理が責任をとる」ということがしばしば起きます。しかもその「選挙」は衆院選や参院選だけにとどまらず、補欠選挙や、今回のように地方選挙まで含まれます。
衆議院議員の任期は最長4年、参議院は全議席の半分ずつ3年ごとに選挙が行われています。更に、その間に統一地方選挙が4年ごとにある。毎年のように大きな選挙があり、その責任が政権に負わされています。
そのため、政権はどうしても「短距離走」に追い立てられます。選挙に勝つことが最優先になり、政策の成果を問うより前に「選挙の勝敗」だけで政権の存続が決まる。結果、首相は次の選挙のことを考えざるをえない。数年先、十年先の課題について腰を据えて考える余裕を失ってしまいます。
思い返せば、2006年から2012年までの6年間に、日本は6人の総理大臣を経験しました。安倍晋三(第一次)、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦。わずか1年足らずでバトンを渡す「回転ドア政権」が続いた時期です。そのたびに「責任をとる」という言葉が飛び交いましたが、残されたものは政策の継続性の欠如でした。
地方選が首相退陣に直結する異例の国
歴代政権を振り返れば、2009年の麻生政権、2012年の野田政権のような衆議院選挙の敗北による下野以外にも、「選挙が引き金で辞任」というケースは枚挙にいとまがありません。
・1998年 橋本龍太郎首相:橋本改革に取り組んでいたが、参院選で与党が大敗し、翌日に退陣表明。
・2007年 安倍晋三(第一次)首相:参院選敗北で「ねじれ国会」となり、政権運営が行き詰まり辞任。
・2021年 菅義偉首相:都議選で自公が過半数割れ。コロナ対応への不満が爆発し、総裁選への出馬を断念。
・2025年 石破茂首相:都議選で自民党が過去最少の22議席(追加公認を含む)、参院選でも敗北。9月に辞任を表明。
とくに都議選は「国政の世論の風見鶏」と呼ばれ、1989年、2009年、2017年、2021年、2025年と政権を揺るがし続けてきました。地方選挙が首相退陣にまで直結する国は、世界的に見ても稀有です。
この「短命政治」の最大の弊害は、長期的課題への取り組みが後回しになることです。