広島市で開かれた平和記念式典で挨拶した石破首相
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(山本一郎:財団法人情報法制研究所 上席研究員・事務局次長)

 総理・石破茂さんの広島、長崎での原爆慰霊式典での演説は、素晴らしかったです。

 その教養の深さと歴史認識の確かさに感銘を受けました。世界の安全保障・国際政治の枠組みは流動化が進み、「一強」から降りていくアメリカと多極化する国際社会への不安から、核使用の懸念が高まっている世界情勢を念頭に置き、石破さんの持論だった「核共有」には触れることなく核戦争のない世界への意欲を示しました。

 長崎では、永井隆博士の「この浦上をして世界最後の原子野たらしめたまえ」という言葉を引用し、被爆の実相を正確に伝えながら核拡散防止条約(NPT)体制に基づく現実的な核軍縮への道筋を示す内容は、日本が唯一の「戦争被爆国」として果たすべき使命を明確に位置づけています。

 特に「ヒロシマ・アクション・プラン」による段階的アプローチや、世界の指導者への被爆地訪問呼びかけなど、具体的な施策を通じて平和維持への日本の役割を描き出している点は評価に値します。

 そして、戦後80年という節目に際して、被爆者への医療支援拡充や原爆症認定の迅速化にも言及し、国内政策と国際的使命を両輪で進める姿勢を示したことも重要ではないかと思います。石破さんご自身が、内容に手を入れてお話しになられたそうです。大変、良かったんじゃないでしょうか。

 しかし一方で、石破茂政権は深刻な政治的危機に直面しています。2024年衆院選、今年の都議選、今回の参院選と重要な選挙で三連敗を重ね、自民党内では両院議員総会において、党則6条4項で規定されている総裁選決議の可能性すら取り沙汰されています。

 常識的に見れば、石破政権は風前の灯火というか、ガチ土俵際と言えましょう。

 選挙戦を振り返れば、くすぶり続ける「政治とカネ」裏金議員の公認継続、準備不足による戦術ミスなど、構造的な問題が浮き彫りになっています。

 前総裁・総理であった岸田文雄さんの派閥解消、任期満了でのフルスペック総裁選の断行という英断による政治刷新の機会を活かしきれず、結果的に公明党との関係も悪化させる形になってしまった森山裕幹事長以下、党執行部の責任は重大でしょう。どうすんですか、これ。

 特に深刻なのは、30代、40代の勤労層から「自民党が何をしたい政党かよく分からなくなった」という声が増えていることです。