(写真:elutas/イメージマート)
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(我妻 佳祐:ミニマル金融研究所代表)

 前編では、低解約返戻金型の保険商品が、保険規制の世界的な常識を破壊した商品であることを説明しました。後編では、これが「座礁資産」として生命保険会社の経営を揺さぶるリスクをはらんでいる可能性を説明していきます。

前編:生命保険の積立金が知らぬ間に「没収」されている?解約返戻金めぐる大問題、国際的に当たり前のルールが日本では…

低解約返戻金型商品が抱える大問題

 低解約返戻金型商品が座礁資産となりかねないのは、この商品が消費者契約法に違反しているのではと考えられるからです。

 消費者契約法は2001年に施行された法律ですが、その9条1項1号で次のように規定されています。

消費者契約法

第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 簡単にいうと、消費者が締結した契約を解約するときに差し引いていい金額は、「事業者に生じる平均的な損害の額」までであり、それ以上のものを差し引くような定めは無効になるというものです。

 しかも、この規定は、消費者側が理解して承諾したとしても無効になるという強力なものです。

 保険監督当局が低解約返戻金型保険を認可したのは1990年代後半ですが、まだ消費者契約法はありませんでした。なので、認可時点では契約者保護上の問題はあったとしても、合法だったのでしょう。

 しかし、消費者契約法ができて以降は、解約返戻金を「没収」するような商品は違法となり、没収部分が無効とされる可能性も否定できないのではないでしょうか。

 保険業界は、「解約返戻金は死亡保険金などと同じ保険給付であり、解約時に払い戻しているわけではないため、消費者契約法は関係ない」というような言い訳をしていたりもします。

 とはいえ、解約時の給付は「人の生死や健康状態に関わるもの」でも「偶然の事故による損害の填補」でもないので、こうした主張は無理筋でしょう。

 低解約返戻金の仕組みが消費者契約法に照らして違法とされたケースはこれまでありませんが、本当に適法なのかどうか、正面からもっと検証される必要があるのではないでしょうか。

 個人的には、消費者が「低解約返戻金型商品で解約返戻金の一部を没収しているのは消費者契約法に違反しており無効である」との訴訟を提起したときに、消費者側が勝つ可能性はゼロではないように思われます。

 実はイギリスでは似た事例があります。