投資詐欺が増えている(写真:Golden Dayz/Shutterstock.com)
(我妻 佳祐:ミニマル金融研究所代表)
2025年の上半期、金融業界を激震させた事件がありました。それが、「証券口座乗っ取り詐欺」です。
最新の金融庁の公表資料(2025年7月7日更新)では、不正売買の総額は5700億円超となっています。
手口は複雑で、全容は未だ解明されていませんが、フィッシング詐欺により顧客の証券口座に不正アクセスし、まず顧客の資産を売却してしまい、その資金で、詐欺師が前もって保有していた、あまり取引されていない小規模な会社の株を買います。
すると、小規模な会社の株に急に買いが入ると株価は高騰することになり、詐欺師が保有していた株をそこで売ってしまうことで利益を得ているのではないかといわれています。
被害者の口座にはもう用済みになった聞いたこともない会社の株が残されることになります。高騰した株価も詐欺師が売ることでまた下がりますから、おそらくはあまり価値のない株が手元に残されることになるでしょう。
はじめに不正に売られた時点では、例えば100万円の株式が100万円の現金に変わるだけなので、損害とはいえません。それが、勝手に株を買われ、それが値下がりすると、その分は損害といえるでしょう。
このように、不正売買の金額は5700億円超となっていますが、そのすべてが被害者の損害というわけではありません。
被害者の損害への補償は証券会社によって対応が分かれています。対面型取引を主なチャネルとする大手証券会社は損害を全額補償する方針で、ネット証券は損害の半額を補償する方針です。詐欺のきっかけは利用者がフィッシング詐欺に引っかかったためであり、利用者側にも責任があるという理屈です。
7月末時点の報道では、SBI証券が被害補償額80億円、楽天証券が10億円とされており、50%補償とすれば、被害が多く出たといわれているこの2社で損害は200億円弱ということになり、不正取引の総額よりはだいぶ少ない額になりそうです。
また、証券会社各社でログイン時の2段階認証を強化するなどの対応が功を奏し、6月の被害額は5月に比べかなり減っています。まだまだ予断を許さないとはいえ、証券口座乗っ取り詐欺については沈静化しつつある状況になっています。

