タヌキのため糞には意味がある(写真:Yuto.photographer/イメージマート)
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「うんこ」という日常では避けがちな存在にこそ、動物の生態や進化の秘密が隠されている。うんこを見れば、世界を見る目が変わるかもしれない。そう語るのは、盛口満氏(沖縄大学人文学部こども文化学科 教授)だ。

 タヌキのため糞やゴキブリの抜け殻といった題材を通して、私たちが普段見過ごしている自然界の新しい姿を、『うんこいろいろ探検記』(木魂社)を上梓した盛口氏に、語ってもらった。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──書籍では、タヌキの「ため糞(ふん)」について触れていますが、なぜ一部の動物は決まった場所で排泄するのでしょうか。

盛口満氏(以下、盛口):本来、哺乳類の感覚は嗅覚が主で、視覚は副次的なものです。その中の例外は、私たち人類です。木の上で果実を食べる生活をしてきたサルの祖先から進化した人類は、哺乳類の中では例外的に視覚に依存した生活をしています。

 他の哺乳類は今でもにおいの世界で生きていて、排泄物も一種の情報伝達手段だと考えられます。タヌキのため糞も、「ここは自分たちの縄張りだ」というメッセージです。あるタヌキ研究者によると、タヌキはため糞のある場所のにおいを嗅ぎ、何かを確認しているような行動が見られるそうです。

 家族同士で縄張りを共有するだけでなく、外部の個体が侵入してきた場合も、排泄物から察知できます。

 ちなみに、ため糞をしない動物でも、排泄行為を通じてコミュニケーションしている例があります。たとえば、イタチは目立つ石の上に排泄しますし、犬も決まった場所におしっこをしてテリトリーを示します。

──ため糞をしない動物は、テリトリー意識が弱いということでしょうか。

盛口:そう考えてよいと思います。単独行動や移動生活をする草食動物などは、明確な縄張りを持たないため、ため糞の必要はありません。

──第4章の「抜け殻とうんこ」は衝撃的でした。「ゴキブリの抜け殻×うんこ」という最悪の組み合わせに、なぜ着目されたのでしょうか。

盛口:これは本当に偶然です。

 今回の書籍のテーマは、「普通の感覚では見えないもの」や「見たくないもの」をあえてクローズアップすることで新たな発見をしよう、というものです。抜け殻も、ゴキブリも、うんこも、当然、日の光を浴びることはめったにありません。特に後者の2つは「見たくないもの」に該当するのではないでしょうか。

 実は2016年に、私は『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』(岩崎書店)という書籍を出していて、そのご縁で2023年にゴキブリをテーマに本を書かないかとお声がけをいただきました。

 結局、この企画はボツになってしまったのですが、ゴキブリの最新情報をアップデートしようというモチベーションが生まれました。

──ゴキブリの抜け殻とうんこの関係とは?