(英エコノミスト誌 2025年8月16日号)
レアアースは貿易戦争の強力な“武器”となっている(写真はサマリウム、パリの物理材料研究所で6月23日撮影、写真:ロイター/アフロ)
習近平国家主席が貿易戦争の邪悪な技を会得している。
「中国は貿易で相手を叩き、ロシアは戦争で相手を叩く」
ドナルド・トランプ米大統領は8月11日、こうつぶやいた。そして「中国は米国を貿易で叩かない。私の在任中にそれはない」と付け加えた。
この発言に異を唱える人は少なくない。
大統領はこのコメントを発したほんの数時間後に、中国との貿易戦争の脆弱な休戦期間を90日間再延長しているからだ。数カ月に及ぶ報復関税の応酬を経て、米中貿易戦争は安心できない膠着状態に陥っている。
だが、中国はこの時間を利用して、手元に揃えた高度な経済兵器に磨きをかけている。
この惑星で最も重要な通商関係(年間6590億ドル相当に上る関係)を安定させる包括的な取引を双方が検討しているなかでさえ、中国は自らの力の源泉が「何を買っているか」ではなく「何を売っているか」にあることを認識している。
トランプ政権1期目の状況から様変わり
習近平国家主席とトランプ大統領が直接向き合った2019年の通商交渉との大きな違いがここにある。
あの交渉では習氏が米国製品の輸入を増やすことに同意し、中国国内で強く批判された。これは、まずいパターンに当てはまった。
当時の中国は、度を超した行動を取る外国に対し、国内消費市場へのアクセスを断つという罰を与えることが多かった。オーストラリアのワインやリトアニアの牛肉などがその好例だった。
もはや、そうではない。習氏は今、サプライチェーン(供給網)とそれに依存する外国の産業を締め付ける方を好んでいる。
中国はここ数カ月、勝利を積み重ねている。
まず、習氏が4月に見事な腕前を見せた。米国の関税への対抗措置として、米国企業にとっては欠くことのできない、中国で精錬されたレアアース(希土類)の鉱物や磁石の輸出を規制した。
自動車メーカーをはじめとした米国企業はパニックに陥り、トランプ氏は和睦を求めた。
また、中国から欧州連合(EU)へのレアアース鉱物とバッテリー技術の流入が何の説明もなく鈍化した後、EUと中国が首脳会談を準備していた7月の段階でEU側が悲鳴を上げた。
その結果、この流れの加速が交渉テーマの一つになった。
いずれも習氏の周到な計画に沿ったものに見える。習氏は2020年、中国政府に非対称な依存関係を構築するよう求めた。
自国のサプライチェーンから外国産の原材料・部品を排除すると同時に、「外国の生産チェーンの対中依存度を高める」ことを目指せというわけだ。
同年4月の会合で、習氏は中国共産党のある部署に対し、そのような依存関係を築けば「(中国への)供給を人為的に切断しようとする諸外国への強力な報復・抑止力になる」と説明している。
中国は自らが諸外国に依存することなく、諸外国を中国に依存させたいと思っている。
