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(英エコノミスト誌 2025年7月26日号)

AIの発展で社会が激変する可能性がある(Pixabayからの画像)

シリコンバレーの予想が的中に多少近いだけでも、未曾有の大変動が起きるだろう。

 歴史を紐解けば、予測をするなら「世の中はだいたい今と同じようであり続ける」と言っておくのが最も無難だった時期がほとんどだった。

 だが、未来は時折、見違えるほど大きく姿を変えることがある。

 シリコンバレーのテクノロジー企業を率いる経営者たちに言わせると、人類はそのような瞬間に近づいている。

 あと数年で人工知能(AI)がすべての認知的タスクにおいて平均的な人間を凌駕することになるからだ。

AIが人間の知能を凌駕する日

 実際にそうなる確率は低いと思っていたとしても、この主張について徹底的に考える必要があることは理解できるはずだ。

 もしその予言が的中したら、世界経済の歴史はこれまでにない大きな影響を被ることになる。

 ほぼ10年前のブレイクスルー以降、AIのパワーは予想を大幅に上回る進歩を繰り返し実現してきた。

 今年は米オープンAIと英グーグル・ディープマインドの大規模言語モデル(LLM)が国際数学オリンピック(IMO)で金メダル水準の得点をたたき出した。

 専門家が2021年に立てた予想を18年前倒しで達成した格好だ。

 LLMは果てしなく拡大している。

 その原動力になっているのは、勝者がすべてを手に入れると考えているテック企業間の開発競争と、2番手にとどまることが体制としての負けにつながることを恐れている中国と米国による競争だ。

 2027年までには、現在最も有名なチャットボットを支えているLLM「GPT-4」を構築するのに必要だったコンピューティングリソースの1000倍に当たる資源を投じてモデルを訓練できるようになる公算が大きい。

世界経済の歴史の変遷

 では、これは2030年、あるいは2032年のAIのパワーについて何を物語るのか。

 本誌エコノミストが今週号に収めた2本立ての特集記事の片方で紹介しているように、多くの人は地獄のような光景を恐れている。

 AIに通じたテロリストが数十億人を殺害できるバイオ兵器を開発するとか、訓練ミスのために非倫理的な振る舞いを見せるようになった「ミスアライン」なAIが制約を逃れて人類を出し抜いたりするといった状況のことだ。

 このようなテールリスク(実現可能性は低いが与える影響の大きい事象)に大きな注目が集まるのも無理はない。

 しかし、もう一方の特集記事で指摘しているように、そのあおりを受けて、「終末論的でないAI」がもたらす衝撃はあまり考慮されていない。

 近い将来に起こる可能性が高く、予測も可能で、同じくらい大きな衝撃であるにもかかわらず、だ。

 西暦1700年以前は、世界経済の成長率は「1世紀当たり」で平均8%だった。次に何が起きるかを予測した人は皆、何かおかしなことを話しているように見えただろう。

 その後の300年間に目を向けると、産業革命が根を下ろすにつれ、経済成長率が1世紀当たり平均350%に上昇した。

 そのため死亡率が低下し、出生率が上昇した。人口が増えたことでアイデアも豊富になり、それが経済成長にさらに拍車をかけた。

 このメカニズムは人の数が増えなければ働かないため、回転速度は遅かった。

 やがて富の拡大に伴って人々が育てる子供の数が減っていった。おかげで生活水準が上昇し、年間2%前後で安定的に向上した。