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(英エコノミスト誌 2025年7月12日号)

中国の何立峰・副総理(右)とロンドンで貿易協議を行った米国のスコット・ベッセント財務長官(6月9日、写真:新華社/アフロ)

各国は世界最大の市場をなだめるために、世界最大の貿易大国を怒らせなければならない。

 米国とソビエト連邦は最初の冷戦で、互いに代理を立てて戦った。似たようなことが米国と中国の貿易戦争でも起きている。

 米中両国はジュネーブとロンドンで融和的な対話を行った後、新しい関税を発動し合うのをやめている。

 その代わり、米国は気の毒な第三国を介し、この戦争を間接的に戦っている。

 米国がベトナムと新たに結んだ協定と、多くの国々に新たに発した関税の脅しは、そうした国々のサプライチェーン(供給網)における中国の役割を縮小させるように設計されているようだ。

 新たな冷戦に関わりたくないと思っていた国々は今、どちらかの側に付くことを強いられるのではないかと戦々恐々としている。

 世界最大の市場をなだめるためには、世界最大の貿易大国を怒らせなければならないのだ。

書簡で続々通達されるトランプ関税

 米国のドナルド・トランプ大統領は7月7日、日本や韓国など十数カ国に書簡を送り、関税交渉の期限を7月9日から8月1日に延長すること、そして交渉が不調に終わった場合に適用する税率を修正することを伝えた。

 例えば日本と韓国には、交渉がまとまらなければ25%の関税を課すとしている。カンボジアは36%、ミャンマーとラオスは40%だ。

 また書簡には、他国から持ち込まれて「積み替えられた」物品には、各国が回避しようとした高い方の税率を適用するとも記されていた。

 中国を名指ししているわけではないが、トランプ氏の想定する「他国」はどこなのかと悩む人はいなかった。

 その後、ブラジルやフィリピンなどにも書簡は送られた。

 またトランプ氏はこれとは別に、2009年に中国がブラジル、ロシア、インド、そして少し遅れて南アフリカも加えて立ち上げた「BRICS」の「反米政策」に同調する国には関税率を10%上乗せすると脅しをかけた。

 トランプ氏は以前、米ドルから世界の基軸通貨の地位を奪いに来るようなまねはするなとBRICSに警告を発したことがある。

ベトナムとの協定に見る新たな手法

 米国がベトナムと結んだ協定は一見すると、ベトナムからの輸入品のほとんどに20%の関税を課すことになる。そして不吉なことに、「あらゆる積み替え品」に40%を課す。

 ベトナムとの協定締結は5月8日の英国に続く2件目だ。

 英国との協定では、英国がサプライチェーンの安全性を米国が満足できるレベルで確保するなら米国は英国産のアルミニウム、医薬品、鉄鋼を特別扱いすると約束されている。

 これについては、中国からの中間財の購入を減らすことと、英国内の中国資本の工場に米国が立ち入ることを認めることを意味していると考えられている。

 サセックス大学のアチュート・アニル氏と同氏の共同執筆者は、他国にペナルティを科す国を特別扱いするという手法は通商交渉では「目新しい」と指摘する。

 このイノベーションを中国は見逃さなかった。

 中国商務省は、中国の利益を犠牲にして通商協定を結ぶ国には断固反対すると表明した。

「中国は(そのような取引を)受け入れないし、断固たる対抗措置を取る」としたうえで、各国は「歴史の正しい方にとどまらねばならない」と付け加えた。