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(英エコノミスト誌 2025年8月2日号)

米国への巨額投資を発表するソフトバンクの孫正義CEO(4月30日ホワイトハウスで、写真:AP/アフロ)

テクノロジー革命と金融革命の出会い

 米国最大級のテクノロジー企業の一群がシリコンバレー風の投資リターンと、工業都市として知られるドイツ・ルール地方風のバランスシートを組み合わせている。

 アルファベット、メタ、マイクロソフトの株式を10年前に購入した投資家は現在、投資額の8倍の評価額を手にしている(配当を除くベース)。

 この3社はデータセンターへの投資を行っており、保有する有形固定資産(建物や土地のような実物資産を意味する会計用語)の規模は株主資本の60%に達し、同じく10年前の20%から拡大している。

 これら3社が過去1年間に行った設備投資額に同じテック大手のアマゾン・ドット・コムとオラクルの投資額を加えると、その合計は工業を営むすべての米国上場企業の投資額合計をも上回る。

 投資会社カーライルのジェイソン・トーマス氏は、直近の四半期の米国の経済成長の3分の1はこうした大手テック企業の設備投資ブームがもたらしたものだと推計している。

1兆ドル単位の巨額投資でファイナンス・ギャップが拡大

 大手テック企業は今年、人工知能(AI)モデルの稼働に必要なインフラの整備に4000億ドルを投じると予想される。最終的な支出額の予想値は押し並べて高水準だ。

 モルガン・スタンレーのアナリストは、2028年末までにデータセンターとそれに関連するインフラの構築に2兆9000億ドルが使われると予想している。

 マッキンゼーのコンサルタントは、2030年までに6兆7000億ドルが投じられると見込んでいる。

 高級レストランで開かれるたちの悪いパーティーのように、その費用を最終的に負担するのは誰なのかを承知している者は一人もいない。

 負担の大半は大手テック会社の最終利益に降りかかってくるだろう。

 アルファベット、メタ、マイクロソフトの3社は2023年以降、計8000億ドルの営業キャッシュフローのおおむね半分ずつを設備投資と株主還元に充てている。

 この心地の良い割合は、大手テック企業の間ですら前例のないものだ。

 アマゾンの株主は巨額の設備投資費用を負担しており、株主還元に飢えている。

 アップルの株主は大規模な自社株買いにより利益を享受してきたものの、投資が少ない分だけAIで後れを取っているのではないかと危惧している。

 だが、設備投資はキャッシュフローを上回るペースで増えている。

 モルガン・スタンレーの試算によれば、設備投資とキャッシュフローの差額を意味する「ファイナンス・ギャップ」は今後3年間で1兆5000億ドルに達する。

 技術進歩のせいで支出がさらに増えたり既存のドル箱事業が危うくなったりすれば、ギャップがさらに広がる恐れもある。

 逆に、法人のAI導入ペースが個人のそれより遅ければ、大手テック企業は投資の回収に苦労することになるだろう。

 そしてやがて株主が、この成長鈍化の埋め合わせとして利益における株主還元の割合を引き上げよと詰め寄ってくるかもしれない。