日清戦争中、中国南部の前線に陣取る日本の狙撃兵(写真:Robert Hunt Library/Mary Evans/共同通信イメージズ)
敵機から撒かれたビラ
80年前の終戦をひとり、東南アジアのジャングルの中で知った日本兵がいる。軍の命令で野戦病院へ物資を運搬している時のことだった。
轟音とともに上空を敵機がやってきた。日本側に戦闘機はないから、すぐに敵機とわかる。慌てて身を隠すと、なにかを投下してきた。爆弾や補給物資にしては落下速度が遅い。それに小さくて数多くのものが舞うように落ちてくる。紙切れだった。
その1枚を拾ってみると、日本語があった。そして、こう書かれていた。
『作戦停止』
すぐに周辺の紙切れをかき集めてみる。どれも同じことが書かれていた。しかも軍の印判まで押してある。
しかし、すぐには信じなかった。日本の軍人が捕まって書いたものだ。印判まであるということは士官が捕まった。「捕虜になるな」というのに、なった軟弱者がおる。そう思った。
だが、どのビラにも同じことが書かれている。そして、こんな文言もあった。
『広島、長崎に原子爆弾が落とされた』
彼の実家は長崎市内にあった。家族が住んでいる。急に心配になった。
そして作戦停止の理由に『日本は負けた』『戦争に負けた』とあった。日本兵はジャングルの中を急いだ……。
