江戸城百人番所 撮影/西股 総生(以下同)
(歴史ライター:西股 総生)
はじめて城に興味を持った人のために城の面白さや、城歩きの楽しさがわかる書籍『1からわかる日本の城』の著者である西股総生さん。JBpressでは名城の歩き方や知られざる城の魅力はもちろん、城の撮影方法や、江戸城を中心とした幕藩体制の基本原理など、歴史にまつわる興味深い話を公開しています。今回の「江戸城を知る」シリーズとして、江戸城の番所を紹介します。
天守より事例が少ない貴重な建物「番所」
江戸城には番所の建物が3棟、現存している。二の丸の同心番所、百人番所と大番所だ。番所の建物は見た目に地味なので、城好きの人でも「ふーん」くらいに軽く流してしまいそうだ。構造にも別段の特色はないから、建築史の分野でも天守・櫓や御殿より「格下」の扱いを受けている。
けれども、筆者は非常に貴重な建物なので、ぜひじっくり見学してほしいと思っている。なぜなら、第一に番所は現存事例が非常に少ない。城門とは別の独立した建物として残っている番所は、弘前城・掛川城・二条城・丸亀城など全国で10棟に満たない。数からいうなら、天守よりレアなのだ。
写真1:百人番所。日本の城では曲輪内の建物が現存していること自体がレアケースだ
第二に、天守や櫓とちがって普段使いの建物であること。天守や櫓は見た目は壮麗ではあるけれど、もともとが戦闘施設なので、普段は人が出入りしない。江戸時代のほとんどの期間を眠って過ごしていたわけで、軍事施設としての築城思想をうかがい知ることはできるものの、江戸時代の人々の息づかいみたいなものが感じられない。
写真2:同心番所。普段使いの建物ゆえ天守や櫓とは違った「生々しさ」が感じられる
対して、御殿や番所は普段使いの建物なので、江戸時代に実際に城で暮らしたり働いたりしていた人たちの、息づかいみたいなものが伝わってくる。しかも、残存数からいったら御殿も番所も、天守よりレア。そんな番所の建物を、「ふーん」で済ませてしまうのは、あまりにもったいない!
