ムーミンはフィンランドの顔。大阪・関西万博でフィンランドのナショナルデーに登場し、ストゥブ大統領(左から5人目)らと写真に収まる(写真:共同通信社)
8月9日は「ムーミンの日」。ムーミンはご存じ、北欧の作家トーベ・ヤンソンが生み出したカバのような風貌をしたキャラクターで、日本でも絶大な人気を誇る。8月9日はヤンソンの誕生日で、20年前にムーミンの日に制定されている。2025年8月はムーミンの小説シリーズの第1作出版から80年の節目に当たることもあり、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーでのトーベとムーミン展をはじめ、各地でイベントも開催される。
ムーミンの魅力を探っていくと不思議と共通項が多いのが、後半戦に突入して盛り上がるNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」の主人公の夫・柳井嵩(たかし)のモデル、やなせたかしの絵本から生まれたキャラクター・アンパンマンだ。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
1969年に子供向けの絵本に登場したアンパンマン
ムーミンの実質的なデビュー作が、第2次世界大戦の終戦直後に刊行された小説『小さなトロールと大きな洪水』だ。
ヤンソンはスウェーデン語系フィンランド人。戦前から風刺画家として活躍していたが、大戦下で弟が出征し、ナチスドイツを支持していたフィンランドが旧ソ連の爆撃や侵攻を受ける中で、創作意欲を失ってしまった。
そんなヤンソンが過酷な毎日から逃れ、自己を保つために構築した“おとぎ話”がムーミン小説だった。
全9巻に及んだ小説シリーズの初期作品は特に、ムーミンやしきを訪れたキャラクターが温かく迎え入れられ、騒動やトラブルに巻き込まれても最後は幸せに暮らすという“ハッピーエンド”に徹した構成となっている。
とはいえ、ヤンソンも現実から目を背けていたわけではない。小説シリーズでは、大洪水や彗星の衝突、火山の爆発といった戦争を想起させる脅威が登場する。小説シリーズは子供たちに向けて書かれたものであり、ヤンソンは困難の先にある希望やそれを勝ち取る勇気、志を同じくする仲間の大切さなどを、未来を担う子供たちに伝えたかったのではないだろうか。
『小さなトロールと大きな洪水』の刊行から24年後、1969年に子供向けの絵本でデビューしたアンパンマンにも同じことが言える。
