遺言書が少し身近に?写真はイメージ(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)
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遺言と言えば、少し前なら巻物に墨で、今でも上質な便せんに万年筆で書くようなイメージがある。しかし、そんな固定観念が大きく変わるかもしれない。今秋からスタートする公正証書遺言のデジタル化を機に、国のお墨付きを得たデジタル遺言の活用が広がっていきそうだ。デジタル遺言の法整備により、欧米に大きく後れを取る日本の遺言の民主化は進展するのか。

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

「米国では若い人たちも普通に書いているんですよ」

 取材先の30代の女性と遺言の話題で盛り上がった。女性が、「60代の親が書いていないのに、私は書いてるんです!」と話してくれたことがきっかけだ。

 女性はシングルでひとり暮らし、当面結婚する予定はないという。自分に万一のことがあった場合、遺言がなければ両親が相続人となって女性の財産を受け取る形になるが、「それはちょっと違う」と感じたのだとか。

「親と不仲というわけではないけれど、預貯金の一部は飼育困難なペットの支援団体に寄付したいし、自分のコレクションや洋服などは妹や姪に渡したいと思うんですよね」

 そのため、遺言には誰にどの財産を渡すのかとその理由を丁寧に綴ったという。

 女性は米国の大学院に留学した経験があり、米国人の友人から遺言を書いていると聞いて、遺言に対する見方が大きく変わった。

「日本で遺言というと、お年寄りが書くイメージ。でも、米国では若い人たちも普通に書いているんですよ」

 日本と米国では遺言の活用度に彼我の差がある。2024年に米国で実施された調査によると、米国人のおよそ3人に1人が遺言を作成している。別の調査では遺言作成率がなんと46%というものもある。これに対し、日本では、亡くなった方の総数に対する遺言の数は1割に届かない。

 普及の妨げになっている要因の1つが、現行の遺言制度だ。