マツダ「CX-80 XD L Package AWD」のフロントビュー(筆者撮影)
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(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

トランプ関税で業績悪化、見直しを迫られる世界戦略

 世界に激震をもたらしている米国トランプ政権による相互関税政策。日本の自動車メーカー各社も業績に影響を受けているが、影響度合いがとりわけ大きかったのは米国への輸出比率が高いうえ、海外生産でもNAFTA(北米自由貿易協定)の実質崩壊の渦中にあるメキシコを重要拠点としていたマツダだ。

 今年(2025年)4─6月の3カ月決算の営業損益は461億円の赤字。前年同期との対比では実に965億円ものマイナスとなった。3カ月間の関税負担496億円に為替相場が前期より円高に振れた影響の268億円が加わっては、もともと利益率の高くないマツダとしてはひとたまりもない。

 8月には税率が5月段階の27.5%から15%に引き下げられるため、第2四半期以降は影響が幾分弱まるであろうが、それでも当分難しいかじ取りを迫られるのは必至である。

 開発、生産、販売の3要素について今後世界戦略を大きく見直す必要に迫られる中、ユーザーにとって気が気でないのは、この影響でマツダの商品展開がどういう影響を受けるかということだろう。

 マツダはここ20年ほど、規模の拡大は世界シェア2%の維持にとどめ、台当たりの付加価値創出力を上げるという高付加価値戦略を生き残り策としてきた。その決め球のひとつが、2022年の5人乗りミッドサイズSUV「CX-60」を皮切りに現在世界で4車種を投入している「ラージ商品群」と称する高価格帯のモデルである。

 高関税の影響下では、低価格帯モデルでのビジネスの組み立ては難しくなる。それを補ううえで高価格帯商品の重要度が高まっていくことが予想されるが、自動車ビジネスは単に良さげな商品を作れば高く売れるという単純なものではない。マツダも当初の意気込みとは裏腹に世界各地で苦戦中。産みの苦しみの真っただ中といったところだろう。

 そのラージ商品群の中で2024年に日本に投入された「CX-80」をロードテストする機会があったので、レビューとマツダの戦略の現在地についての考察をお届けしよう。