デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである――2018年に経済産業省・特許庁が発表した「デザイン経営」宣言の一節だ。世界の有力企業はデザインをどのように経営戦略の中に位置づけ、ブランド価値の向上やイノベーションの実現を成し遂げてきたのか。本稿では、『デザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略』(小山太郎著/中公新書)から内容の一部を抜粋・再編集。イタリア、アメリカ、中国、韓国、北欧、そして日本を代表する企業の事例を取り上げ、デザインをてこに競争力向上を図る経営の在り方を解説する。

 近未来的な自動車生産で知られる米EVメーカー・テスラ。コクピットのような外観、革新的な車体構造、遊び心満載のインテリアなど、その設計にはイーロン・マスクCEOと主任デザイナーの意向が反映されている。当初、業界内でクレイジーと評されたデザインに見る同社の戦略とは?

EV専業・テスラのデザイン経営

■ デザインは各ブランドを分ける最後のフロンティア

 2008年より電気自動車(EV)メーカーのテスラの主任デザイナーを務めているのは、マツダから移籍したフランツ・フォン・ホルツハウゼンである。

 彼は、テスラというブランドの基礎を固めるために、中核的な車種となるモデルSのデザインを最初に行うことで、その後のテスラのEVセダン群(モデルS、X、Y、3)のファミリーフィーリング(当該ブランドの異なるモデル間に共通する当該ブランドらしさ)を確立した立役者である(次ページ図3-2)。

 また彼は、SF的な近未来を感じさせるピックアップトラックであるサイバートラックや大型トレーラーであるセミも手掛けている。テスラというブランドをデザインの力で確立することについて、フォン・ホルツハウゼンは以下のように証言している。

「車は一般にどれも似ており、マンネリで面白みがありません。(…)アメリカの自動車産業に対する消費者の印象は、新しいものが出てこないということです――ここに、テスラ車がPCの世界でいうところのアップル製品になれるチャンスがあります。デザインは、各ブランドを互いに分ける最後のフロンティアです。同じ種類のテクノロジーや環境への配慮を各社が追い求めていますが、ホンダやトヨタあるいはフォード車を購入するように人々に強いているのは要するにデザインです。私は、テスラを買った人が、友人から「美しい車だね。えっ、それに環境に優しいの? すごいね!」と言われるようにしたい(2)

(2)Franz von Holzhausen―Tesla Versus The World (https://www.motortrend.com/news/franz-vonholzhausen-tesla-motors/)