OleksSH/Shutterstock.com

 デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである――2018年に経済産業省・特許庁が発表した「デザイン経営」宣言の一節だ。世界の有力企業はデザインをどのように経営戦略の中に位置づけ、ブランド価値の向上やイノベーションの実現を成し遂げてきたのか。本稿では、『デザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略』(小山太郎著/中公新書)から内容の一部を抜粋・再編集。イタリア、アメリカ、中国、韓国、北欧、そして日本を代表する企業の事例を取り上げ、デザインをてこに競争力向上を図る経営の在り方を解説する。

 韓国を代表するグローバル企業サムスン電子。家電業界もとい、ユーザーをあっと驚かせるような魅力的な製品開発を行うために、二度にわたって行われた「ある革命」とは?

自社の哲学を反映させる サムスン電子の事例

■ 第1次デザイン革命宣言

 1993年、サムスン電子の李健熙(イゴンヒ)会長は、元NECのデザイナーで、当時サムスンのデザイン顧問だった福田民郎(ふくだたみお)による、サムスンの問題点を指摘したレポートを読み、デザイン重視の「新経営」を宣言することとなる(3)

 そのレポートは、デザイン力のみならず、技術やマーケティングなど、商品の創造能力全般がサムスンに不足しており、このままでは世界に通用する企業にならないことを指摘するものであった。さらに今後の方向性として、コスト計算や世界市場における競争状況の分析まで行ったうえで、企画からモノ作りまでの総合的な提案力を備えたデザインセンターが必要であることも示された(4)

 福田レポートを受けて宣言された「新経営」では、市場で入手可能な生産技術は似たり寄ったりであるので、製品の個性化のためにはデザインが最も重要であることを強調している。その後、1996年には第1次デザイン革命が宣言され、21世紀の勝者は、企業にとって最も重要な資産であるデザインや創造性によって決まるため、サムスンの哲学や真髄を反映するような独自のデザインを発展させるという方針が示された。

 図5-2(次ページ)の陰陽太極図(白色〔右側〕が「陽」、黒色が「陰」を表しており、天地万物あらゆるものが陰と陽のバランスによって成り立つことを示す)は、サムスンの基本的なデザイン哲学を示したものである。

(3)本節は、主にFarhoomand et al. (2009)、Freeze et al. (2008)、Yoo et al. (2015)、石田(2013)に基づく。
(4)よみがえるか日本の電機(5)『日経産業新聞』2012年8月27日および「デザイン経営の実際 サムスン電子の成功事例から」(https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/13073101.html)より。