電車に乗って訪れる愛岐トンネル群
愛岐トンネル群は、名古屋駅から中央本線の普通電車で約30分余りの定光寺(じょうこうじ)駅からほど近い場所にあり、付近に駐車場はないため、訪問は電車利用に限られる。そのため、現地でアルコールを提供するこのイベントは酒酔い運転と無縁であり、利用者が安心してビールを楽しめることも魅力だろう。
名古屋から電車に乗ると、市街地の続く車窓は高蔵寺駅を過ぎるとにわかに山間部に入り、川沿いの静寂とした雰囲気に包まれた小さな駅、定光寺に着く。普段は無人駅だが、最近は、ある“聖地”としても注目を集めている。
煉瓦トンネルのアーチ部分に掲げられた“妖怪隧道“のイラストと文字(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
「ゲゲゲの鬼太郎」の“聖地”に
2023年(令和5年)11月に公開されたアニメーション映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者・水木しげる氏の生誕100周年を記念した作品だが、作中、主人公が降り立つ駅は定光寺駅をイメージしたとされ、公開以降ファンの姿が同駅に目立つようになった。
以前からトンネルの暗闇と妖怪の親和性に着目していた村上氏が編み出したのが“妖怪トンネル”で、昨秋の特別公開時に、最長の6号トンネル(333m)の“闇”を活用し、おなじみの「一反木綿(いったんもめん)」など数種類の妖怪を煉瓦の天井に投影する試みを行った。
トンネルの“闇”独特の暗さを損なわずに、経年した煉瓦にレトロな光を映写することで、約130年前の姿を保つ煉瓦トンネルの歴史遺産としての価値を感じてもらう狙いもあったという。
トンネル内に映写された妖怪。“闇”本来の暗さを損なわない配慮も感じられる(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
トンネルの音響を生かしてクラシックコンサートも
過去にはトンネル群全体を舞台にした本格的なクラシックコンサートも開催された。4本の煉瓦のトンネルそれぞれで、声楽や異なる楽器の奏者がパフォーマンスを繰り広げ、聴衆がトンネルを移動していく、という斬新なアイデアであった。
これは、ある著名なプロデューサーが愛岐トンネル群の煉瓦空間が醸し出す独特の音響に注目し、村上氏らの協力のもと、秋の紅葉と相まって盛況を呈した。明治期の鉄道廃線トンネルで本格的なコンサートが開催された例は極めて稀だ。
このイベントが開催されたのはコロナ禍前だが、歴史ある煉瓦のトンネル内でパフォーマンスを行いたいというミュージシャンは筆者の知る限りでも、ほかにもおり、他地域の煉瓦の廃線トンネルでも開催されれば素晴らしいコンサートが期待できるだろう。
クラシックコンサートの模様(讃美歌)。各トンネルで奏者や楽器が異なり、聴衆が移動して楽しむという斬新なアイデアだ(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)