大山康晴 写真提供/田丸 昇
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(田丸 昇:棋士)

「終盤が2回ある」

 大山康晴十五世名人は昭和棋界に偉大な足跡を残した大棋士だった。タイトル獲得は名人18期、王将20期、棋聖16期など、合計80期。これは羽生善治九段(54)が獲得している99期に次ぐ記録である。通算勝利は1433勝で、2018年に羽生に抜かれるまで歴代1位だった。

 大山は1957年から1967年までの10年間、タイトル戦(当時は五冠)に50期連続で登場し続けた。その間にタイトルを2回失ったが、翌期に挑戦者になって奪還した。これは不滅の大記録で、2位の羽生九段でも23期連続である。

 振り飛車を駆使した大山将棋の特徴は、強靭な粘り腰にあった。終盤で追い込まれても際どく逃れたので、「終盤が2回ある」と言われた。名前のように大きな巌として、相手に立ちはだかったものだ。ちなみに色紙や扇子に好んで書いた文言のひとつは、《助からないと思っても助かっている》。

 私こと田丸は五段時代の1979年、ある公式戦で大山と初めて対戦した。大山の振り飛車に対して攻勢にいくと、先回りして柔らかく受けられ、攻めは空を切って敗れた。率直な感想として、大山将棋は巨大な岩というよりも、軟体動物の蛸みたいな感じだった。