逮捕された河井案里氏を乗せ、拘置所に入る車両(写真:共同通信社)
大規模な選挙買収行為で2019年に逮捕された元法務大臣の河井克行氏と、その妻で元参議院議員の河井あんり氏は、それぞれ刑期を終え、今は静かに2人で暮らしている。事件を振り返り、今何を思うのか。『天国と地獄 選挙と金、逮捕と裁判の本当の話』(幻冬舎)を上梓した河井あんり氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──事件の最初の報道から逮捕まで、マスコミに追いかけられた日々について書かれています。どこに行っても疑惑の人として報道陣に取り囲まれていた頃、毎日どんなことをお感じになっていましたか?
河井あんり氏(以下、河井):週刊誌の一報が出て付いた弁護士から、とにかくメディアに対しては完黙するように言われ、「答えられません」と回答することすらダメだと言われました。
親しい記者からも「あなたはいつもニコニコしているけど、絶対に笑顔を見せちゃダメだよ」とアドバイスを受けました。私の性格上、記者さんと挨拶を交わす時につい笑顔が出てしまうのですが、絶対に笑っちゃダメだと。マスコミがどのように揚げ足を取ってくるか分からないので。
──検察の取り調べでも少し挑発的なことを言ってみた、というエピソードが書かれていました。
河井:捜査機関の調べというのは一方的ですから、ちゃんと主張しなければなりません。また、取り調べされる側とすれば、その検察官がどれくらいの取り調べ能力を持っているか、どんな情報を持っているかということを確かめる機会でもあります。相手を少し揺さぶった時にそれが分かるのです。結局は、取り調べというのは人間対人間の戦いの時間であり、人間力の戦いです。
──追いかけてくるマスコミからカーチェイスのようにして逃げる話なども紹介されていましたね。
河井:当時は、各局・各誌面で、私の人格や容貌に対する中傷が行われていたようです。週刊誌の雇ったらしいバイク便がどこまでも追いかけてきて、交番に逃げ込んだこともあります。あれは本当に怖かったですね。
マスコミの問題点ということも考えさせられました。日本のマスコミは、みんな、同じテーマを全く同じ論調、同じ切り口で論じます。報道合戦が始まったら、立ち止まって考えることをせず、各社一斉に同じ方向に走り、誰が一番早く走れるかということだけが問題となります。
私の事件でも、検察が違法な取り調べをしていることは記者も認識していましたが、記者は検察から情報をもらうために検察に背けないし、世論の賛同を得るために、世論に背いた記事も書けません。世論がある人物を憎んでいれば、その憎さをどれだけ増強させる記事を書けるか、というのが今のマスコミ人の使命になっています。
──「陣中見舞いの際、4名の県議の先生たちに見舞金を持っていったことで、のちに私は逮捕されてしまった」「一般的な話として、少なくとも自民党の国会議員が、親しい候補者に対して手ぶらということは考えられない。だいたい国会議員が持っていく金額は10万円以上、色をつけて30万円が相場であろうか」「私は完璧に業界の常識に染まっていて、全くもって感覚が麻痺していた」と書かれています。
