軍事演習を視察する台湾の頼清徳総統(写真:ロイター/アフロ)
(福島 香織:ジャーナリスト)
7月26日に行われた台湾政治史上最大規模と言われる立法院大リコール(罷免)住民投票の結果は、対象となった国民党24議員(立法委員)全員が不成立となった。8月23日に行われる国民党7議員に対するリコール住民投票も同様の結果になるかもしれない。
台湾の立法委員(国会議員)の与野党リコール合戦の問題は、このコラム欄で4月にも紹介した。あれから、激しい攻防をへて、国民党支持者サイドが仕掛けた民進党議員に対するリコール請求は第一段階、第二段階の署名集めで挫折した。
一方、民進党支持者サイドが仕掛けた国民党議員ら31議員と無所属1市長に対するリコール請求は規定の署名を集めることができ、第三段階の住民投票による可否を問うことになった。その住民投票は2回にわたって行われることになり、第一陣のリコール住民投票が26日に実施された。
台湾立法院は少数与党のねじれ国会状態。仮に6人以上リコールが成立し、3カ月以内の補選で民進党候補が当選すれば、民進党で単独57議席と、立法院113議席の過半数がとれて、政権運営はかなりやりやすくなるだろう、と期待されていた。
だが、今回、一件としてリコールは成立しなかった。これは頼清徳政権に対する否定の民意の現れなのか。
今回のリコール請求の理由は一つではないが、国家の安全保障を毀損するといった、イデオロギーに関わる理由といってもいいものだった。具体的には、国民党議員が何度も中国を訪問し王滬寧ら中国共産党幹部と会見し、中国の統一戦線工作を利するような言動を行ってきたこと。また、頼清徳政権を抑制するために立法院の権限を拡大しようとする国会改革法案(一部規定については違憲判断が出た)を推進したことだ。これらは台湾政治史においても珍しいリコール請求理由だった。しかも31議員がほぼ同時期にリコール請求された。
国民党議員たちは、中国を仮想敵国とし、反中親米の国防強化路線を推進する頼清徳政権の政策、予算案を最大野党の「数の力」で妨害し、中国共産党の対台湾浸透工作に利するような言動を続けている。その存在は、米国との国防協力路線の大きな障害になりかねず、台湾の国益を損なうという見方も否定はできない。
だからこそ、署名も規定通り集まりリコール住民投票が実現したのだった。リコールが成立するには選挙区の有権者(20歳以上の住民票登録者)の投票で、相対多数のリコール賛成票を獲得し、かつその数が有権者総数の25%以上でなければならない。
今回のリコール住民投票の投票率は5割以上、花蓮県など注目県においては6割以上。2020年6月に実施され高い注目を集めた韓国瑜高雄市長(当時)に対するリコール住民投票の投票率が41.14%だったことを考えると高い投票率だった。
だが24議員全員、反対票が賛成票を上回る結果となった。また新竹市長を停職処分となっていた高虹安(民衆党に近い無所属)に対するリコール投票も反対票が上回り、リコール不成立となった。
この投票前、立法院民進党団の団長の柯建銘はまるで勝利を確信するかのように、フェイスブックに「大罷免大成功だ」と楽観的なコメントを残していただけに、民進党サイドもこの結果を想像していなかったかもしれない。