「高畑勲展―日本のアニメーションを作った男。」展示風景 「火垂るの墓」©野坂昭如/新潮社,1988
目次

(ライター、構成作家:川岸 徹)

2025年は高畑勲の生誕90年という節目の年であり、高畑がその人生に大きな影響を受けた太平洋戦争の終戦から80年が経過する年でもある。東京・麻布台ヒルズ ギャラリーで展覧会「高畑勲展―日本のアニメーションを作った男。」が開幕。原画、セル画、背景画をはじめ、制作のためのノートや脚本、資料などが展示されている。

高畑勲作品の最高傑作は?

「日本のアニメーションを作った男。」と展覧会のサブタイトルにあるが、まさにその通りだと感じる。高畑勲(1935-2018)は1935年に三重県で生まれ、東京大学仏文学科卒業後の1959年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社した。その後、2010年代まで約半世紀にわたって日本のアニメ界を牽引し、「名作」と呼ばれるアニメ作品を次々に生み出し続けた。まずは高畑勲の代表作といわれる作品を挙げてみたい。

『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)演出[監督]
『パンダコパンダ』(1972)演出[監督]
『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』(1973)演出[監督]
『アルプスの少女ハイジ』(1974)演出
『母をたずねて三千里』(1976)監督
『赤毛のアン』(1979)演出、脚本
『じゃりン子チエ』(1981)監督、脚本
『セロ弾きのゴーシュ』(1982)監督、脚本
『柳川堀割物語』(1987)脚本、監督
『火垂るの墓』(1988)監督、脚本
『おもひでぽろぽろ』(1991)脚本、監督
『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)原作、脚本、監督
『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)脚本、監督
『かぐや姫の物語』(2013)原案、脚本、監督

 年代順に14作品を挙げたが、「最高傑作は?」と聞かれると困ってしまう。おそらく、人によって様々な回答が出てくるのではないか。関西ノリのドタバタ劇かと思いきや愛にあふれた人情物語の『じゃりン子チエ』、戦争の悲惨さに見続けるのが辛くなる『火垂るの墓』、人間と動物の共存について考えさせられつつ鑑賞後の心地よさに再び見たくなる『平成狸合戦ぽんぽこ』。筆者は小学生時代にリアルタイムで見た『アルプスの少女ハイジ』と『母をたずねて三千里』が忘れられない。

「高畑勲展―日本のアニメーションを作った男。」展示風景 高畑勲 肖像写真 撮影/篠山紀信

 ここに挙げたほかにも、高畑が関わった作品は多数。1971年10月にスタートした『ルパン三世』第1シリーズは、視聴率の低迷により大隅正秋監督が途中降板。「Aプロダクション演出グループ」が後任を務めたが、このAプロダクションは高畑監督と宮﨑駿監督のこと。コミカルな要素を取り入れるなど路線を変更した『ルパン三世』第1シリーズは複数の“神エピソード”を生み出し、今も多くのファンに愛されている。

 宮﨑駿監督作品の『風の谷のナウシカ』(1984)、『天空の城ラピュタ』(1986)では、高畑はプロデューサーを務めた。高畑はナウシカの音楽を久石譲に依頼。そのコラボレーションは見事成功し、久石譲の楽曲は宮﨑アニメに欠かせないものとなった。世代や好みによる違いもあるだろうが、代表的な仕事がいくつも思い浮かぶ。これが、高畑が「日本のアニメーションを作った男。」といわれる所以だろう。